文筆家の鴨志田穣さん(42)の新作「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」 (スターツ出版、1365円)は極めつきの“私小説”となった。 アルコール依存症で精神病院に強制入院、 患者同士の珍妙な騒動に巻き込まれながら、 依存症を克服していくストーリーは、 ほとんどが鴨志田さんの実体験に基づいたもの。 最後は衝撃の結末が待っているが、 壮絶さの中にも明るさと温かさがにじむ一冊だ。
「素潜りして深いところまで行って、10年近く気絶しそうにまで我慢して、 海面に上がってぱっと息をしたような状態です」 アルコールから離れた鴨志田さんは背筋をぴんと伸ばし、 穏やかな表情になっていた。
描かれているのは、どうしようもなく酒におぼれていく依存症の苦しみ壮絶な闘病、 切なくて、でもなんだか笑えるアルコール病棟の風景、 元妻や子どもたちとの温かな交流―。鴨志田さんが経験したことだ。
最初に依存症と診断されたのは4年前。食道静脈りゅう破裂で吐血。 医者から「次、飲んだら死にますよ」と警告されても、 朝から酒をあおっていた。しかし10回目の大量吐血で今年ついに強制入院。 この間、漫画家の西原理恵子さんと離婚している。
なぜそこまでして飲むのか? 「焦燥感と自信のなさ。人の書いたものを読んだり自分の欠点見るたび、 布団の中にもぐって隠れていたいような思いがいつもありました」 特に30代、仕事への焦りが心の澱となった。
元戦場カメラマン。カンボジアやボスニア・ヘルツェゴビナなど 銃弾の中をカメラを担いで走り回った。 ポルポト派からのホールドアップ。 目の前で兵士のロシアンルーレットがビンゴだったこともある。 死が常に眼前にあった体験も依存症の「引き金になったかも」という。
結局、鴨志田さんの心を救ったのは家族の存在だった。 入院中、依存症とは別の病気が発覚し、今は西原さんの元に身を寄せ、 子どもと一緒に生活している。 今は自助グループに顔を出し、たまに起こる飲酒欲求を抑え通院、 執筆や取材をこなす毎日だ。
病状によっては、命はそう長くないと伝えられている。 「どうってことないですよ。何度も命なくしたと思ってるから。 逆に良かったと思ってるんですよ。 リミットがはっきりした。焦燥感を持たなくていい」
そんな鴨志田さんが、一瞬だけ照れたような表情を見せた。 「お守りみたいなもん。彼女は右手に。分かりません、女の子の気持ちは」 鴨志田さんの左手薬指には、元妻との結婚指輪が今も光っている。
★「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」インタビュー/スポーツ報知★
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