杏の前から姿を消しオーストラリアへ行ってしまったトオルは、 初期の稿では崖から落ちて死んでしまっていた。 その話を広末にしたら、彼女は、「生きていて良かった」と うれしそうに言った。 私も話の方向に自信がもてた。
「20世紀ノスタルジア」の初期稿では、死が色濃く支配していた。 何度も書き直しているうちにそれが重たくなってきた。 トオルがオーストラリアに行くだけにして書いてみたら、 救われた気分になった。 私は、男の子と女の子が結ばれることが、 地球の滅亡を防ぐことになるような、 ファンタジーと青春映画がひとつになった映画が見たいと 思うようになってきていたのだった。 「20世紀ノスタルジア」はそんなふうにして出来上がった映画だ。 撮影中でも、私は時折、初期稿の重たい気分の方に 揺りもどされることもあった。でも、広末涼子の演技プランが つねに未来に向かってバランスをもどしてくれた。 「杏はそんな風にクヨクヨしたりしないと思います」と彼女は言って、 演技してみせてくれた。とても杏らしかった。ああ、そうか 杏ってこういう子だったのかと教えられることがしばしばだった。 広末涼子は杏に迷いのない自分の姿を投影して、この映画の主人公を 見事に造型してくれたのだった。
★20世紀ノスタルジア 撮影日記/原将人★
|