(まず、“鶏郎先生がプライベートでつくっていた音楽”を…)
細野 うん、うん。それはすごく興味深い。
(慶一さんにはじつはMIDIファイルをあらかじめお渡ししてありました)
細野 ずるいなぁ。こっちには来ない!(笑)
慶一 ウフフフ。
(…徹夜で解析してもらったんです)
細野 あ、そう!(CD-Rを指して)…それ?
慶一 ええ、ここに入ってます(笑)。 「TOKKYU ROCK」とか…このへんから行きましょう。
竹松 これは鶏郎先生が87年に マッキントッシュのコンピューターを入手して、 自分の“ベスト12”というのを選んで、打ち込みをしたものなんです。
細野 ええ。
竹松 まず、コンポーザーというソフトで楽譜から入って、 打ち込みをして、それをMIDIで…。
細野 ああ、そう。…これが、アプリケーションだ。
竹松 そうですね。ユニコーン社の楽譜ソフト。
細野 これは珍しい!
竹松 マックが当時、35メガぐらいしか 保存できなかったときに、まず楽譜を書いて、 それをパフォーマーというソフトに 変換して音を出して…。
細野 なるほどね。すごい。
竹松 この、12曲をベストという形で残したものを、 この間、鈴木慶一さんに聴いていただいて。 それが…保存名が、もとのタイトル「ぼくは特急の機関士で」が 「TOKKYU ROCK」(特急ロック)になっていたりとかするんです。 今日、お聴かせしようかなと思っております。
細野 是非、聴きたい。
竹松 どういう順番がよろしいでしょうかね。
慶一 「TOKKYU ROCK」、行きましょうよ。
竹松 私も初めてこれを聴いたときに、 「あっ、面白い。 80年代ふうにアレンジしているんだな」 と、結構、驚いたんです。ちょっと聴いてみてください。
細野 いつのだろう?
竹松 保存の日付は88年ですが 実際は87年にすべてをデータとして入れていますね。
細野 なるほど。
慶一 日付まで出ちゃいますからね。作った日付が。 …死んだときに、怖いですね(笑)。
細野 そう…データがね(笑)。
慶一 PCの中をちょっと、きれいにしていかないとね。
(聴く) 一同 ほぉー!
細野 うん、面白い! なんか…覗いている感じがする。密室を。
慶一 ひとのデータは面白いですよ。 覗いている感じで。
細野 これは、ライブラリーみたいなもので出版するんですか?
竹松 いえ、全然、そういう予定はないんです。 この当時、本人が作っているときも べつに出版の予定とかがあったわけじゃなく、 ほんとに趣味でつくっていたんです。
細野 それはそうだろうね。聴けば、そういう感じ…。
竹松 発表の場があったわけじゃないので、 とにかく、晩年のライフワークみたいな形で、 クラシックとともに自分の集大成みたいなことで、 コンピューターでやろうということだったんですね。
細野 なるほどね。…これは、なに?
慶一 これは、「クラリネット五重奏曲」。
細野 へぇー、すごい。そういうのもあるんだね。
竹松 はい。この間、鈴木慶一さんに新しい音で…。
細野 あっ、やり直したということ? 自分で?
慶一 ええ。音色は今の。
細野 聴いてみたいですね。 (聴く)
細野 すごいね! すごい、すごい。
竹松 第一楽章は、鶏郎先生が 戦時中に諸井三郎先生に師事していたときに、 卒業制作として書き上げていたものなんです。 それで、晩年に、第二楽章以降を、 コンピューターを手に入れたことによって 完成させようとして、作ったんですね。 (鈴木慶一さんの方を聴く)
細野 これがやり直したやつ?
慶一 昨日、焼いたやつ。
細野 すごいよね。 ミヨーとかプーランクとかのようでね。
慶一 うん。そうね。
細野 すごい、すごい。
竹松 ええ。きれいですねー! 当時の音源に比べると、ほんとに。
(僕らが知っている鶏郎先生とは随分違う鶏郎先生がいたので、 びっくりしましたね)
竹松 そうですね。
細野 なんか共通点を感じるよね。 われわれもこういう面があるからね。 陰でやってたりするじゃない。 自分も、こういうのは一杯持っているからね。
慶一 ええ。私も…陰で…。
細野 やっているんでしょ? 聴いてみたいよ。 死んでからじゃないと、 そういうのは出てこないのかな(笑)。
慶一 死んでからじゃないと、出ませんなぁー!(笑) …細野さんは、じつは交響曲とか 作っているんじゃないの?
細野 交響曲…!(笑) うちにベートーベンの彫像があるんだけど、 怒られちゃうから。 にらまれてるから。
慶一 眼光鋭いしね、あの彫像は(笑)。
細野 うん。一回、そのベートーベンの霊が降りてきて シンセが勝手に演奏しだした、ということがあるんだよね。
竹松 エーッ!?
細野 ほんとに。慌ててDATに録ったの。あるよ、それ。 …死んでから発表しますから(笑)。
竹松 すごい!
慶一 それって、自分のものじゃなくて ベートーベンのもの…(笑)???
細野 ベートーベンをスタジオに置いてあるわけよ。 石膏をね。お祖父さんの形見なんですけどね。 で、それにいつも睨まれながらやっていたのよね。 「なんか、誰か見ているなぁー」と思ったら、 あるとき、勝手にシンセが鳴りだしちゃったの。 終わらないのよ、それが。 延々とやっているんだよ。 何と言ったらいいかな…シェーンベルグとか… そこまで行かないか…シュトックハウゼンぐらいかな… そんなような感じ。
慶一 ヘぇー。
細野 ワァーン、ワァーンと高音が鳴っているかと思ったら、 急に、ダッダダーン、といったり。ああいうのは初めてなんだよね。
慶一 MIDI暴走じゃないの?
細野 MIDI暴走って、もっと滅茶苦茶でしょ? そうじゃないの。ちゃんと秩序があるの。
慶一 秩序があるって!(笑) すごいね。
細野 間があって…ドキドキしちゃうような間があるわけよ。 …ま、鶏郎先生のこの音楽は、 そういうような音楽に、ちょっと、近い(笑)。
★三木鶏郎を知ってるかい?part2/細野晴臣×鈴木慶一★
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