らも 野坂先生、武器は持ってないの?
野坂 そんなの持ってるわけないじゃない。
らも おれは完全に武装したぞ。 マチェーテという、南米の人がジャングルに分け入るとき、 枝を払うために使う、青龍刀みたいな、刃渡り四六、八センチの刃物を買った。
野坂 マチェーテは軽いね。 青龍刀は持ったことあるけども、五キロくらいあるんですよ。 五キロの重さでもって人を斬る。 で、湾曲してるから、普通の人がうっかり持つと、 よろけて自分を傷つけちゃう。 マチェーテを持ってる人間なんかとケンカするとまずいのは、 こっちが例えばボブ・サップみたいに強くても、 あれ一本あったら、おしまい、ほんと。
らも おれは半日かけてマチェーテを磨いた。
野坂 よほど錆びたのを買ったんだね。
らも いや、先が丸かったから、やすりのグラインダーで研いだのね。
野坂 信じられないね。 さっきギターに一生懸命、カッターナイフで細工してたけど、 いやぁ不器用なこと不器用なこと。 指を切りゃしないかとハラハラしながら見てたんですよ。 そんなヤツがマチェーテの先端を研ぐなんて、できるわけない。
らも スタンガンも買った。
野坂 スタンガンって使い方むずかしいんですよ。 持ったまま体ごとぶつからないと。 伸ばした手をヒネられて、自分の方に持ってこられたらおしまいだからね。
らも ギミックで携帯電話の形をしてて、 革のケースに入ってるの。 で、ストッパーを外して、スイッチを押したら、 電極から十八万ボルトの電流が流れる。
野坂 スタンガンをケースに入れて持ってるっていうけど、 アホな話でね。 ケースから出してるうちにこてんぱんにやられちゃう。
らも ケースのままで大丈夫。 電極が出てるから。 それを相手の首筋に当てたら、三十分は動かない。 その間に警察を呼んで逃げる。
野坂 そんな簡単に首筋に当てられるわけないよ。 服の上からだと、ひっくり返ってるのはせいぜい二分か三分。 その間に逃げちゃえばいいわけ。 僕だったら、それだけあれば最低千メートルは逃げられると思う。 だけど、らもだったら、五、六メートルか。 よろよろしてる間に相手は気がついちゃう。
★イッツ・オンリー・ア・トークショー/野坂昭如×中島らも★
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