宿題

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2006年07月04日(火) MOTHER3のきもち/中村一義
自分がつくっているもののなかに『MOTHER』の成分って
むちゃくちゃ入っていると思います。
なんていうかな、『MOTHER』って
マイナスのつくりかただと思うんですよ。
存在するものをどんどん足していくというよりも、
ないものをあると感じさせるつくり方。
そのあたりは、デビューするころとか、参考にしてました。
ぼくは、小さいころに両親が別れたということもあるんですけど、
ゲームとかそういう文化が親っていうか、
「文化に育てられた」っていう感覚があるんです。
で、手塚治虫さんが、『まんが道』のなかで
「漫画を描くんなら漫画だけ読んでちゃダメだ」っていうことを言っていて、
それをかたくなに信じていたんですよ。
だから、自分が曲を作る、作曲というアウトプットを選んだときに、
そこに、育ててくれた文化を全部入れていこうとしたんですけど、
そのときにマイナスでつくっていくという作風は
『MOTHER』からずいぶん学びました。あまり語りすぎず、っていう。

じつはぼくは、デビュー曲(『犬と猫』)で
はじめて日本語の詞を書いたんです。
それまでは日本語の詞ってどう書いていいもんかわかってなくて。
そのとき、いろんなロジックの組み立てとか、
自分らしさみたいなところを求めるときにいちばんしっくり来たのが
『MOTHER』のことばだったんです。
それと、スチャダラパーが大好きだったので、彼らのライム。
そのふたつのエポックを信じて、日本語の詞をつくっていたんです。
だから、『MOTHER』っていうゲームは、
自分の音楽のなかに活きているというより、
ほんと、ぼくにとっては哲学みたいなとこまで行ってる作品ですね。

これまでのロードムービー的な展開ではなくて、
ひとつの場所でストーリーが進んでいく展開は
妙に自分とリンクしたんですよ。
ぼくも、江戸川区に生まれ育って、
両親が別れても絶対にそこを離れたくなかったっていうか、
自分を育ててくれた土地なんだから、
「ここが親だ」ぐらいに思って離れないっていうふうに
思って暮らしてたんですね、ずっと。
そういう思いがなんかリンクしたっていうか。
ゲームのなかの島でみんなが暮らしていて、
だんだん人の価値観が変わることで
そこの景色が変わってきてっていうのがちゃんと出てて、
なんか身につまされる思いがして(笑)。

同じ場所で、そこの景色が変わることによって、
軽いところから、深い部分が見通せるつくりになってたと思うんです。
町の人との軽い会話のなかでも、
なんか深いところがもう透けて見えるっていう感じで。
最終的には、深い部分がすごくたくさんあって、
わかんない人もいるのかもしれないけど、
でも、ちゃんとやれば到達できると思います。
リダの存在とか‥‥深いなあと思うんです。
ぼくはどうしても、結末を見てしまうというか、
それがどこに向かっているかというのがすごく重要なんです。
それを踏まえたうえで、「過程がいちばん大事」って
思っちゃうようなタイプで、
それは自分の作品をつくるときも同じなんですが、
それも『MOTHER』から「イズム」として
継承させてもらったのかもしれないです(笑)。

細かいところを挙げていくときりがないんですが‥‥
ヒモヘビとか、強力でしたねえ(笑)。いやー、もう、最高ですよね。
「もう一度チャンスをくれ!」とかね。
ああいうふうに生きてみたいなあと思いますね(笑)。
そもそもあれって意味としてはアイテムですよね。
アイテムにしゃべらせて、あそこまで広げてしまうという発想がすごい。

酸素補給マシンもすごいっていうか、ちょっとずるいっていうか(笑)。
行く先々で酸素が足りなくなるから、絶対必要になってくる機能じゃないですか。
それをあのキャラにしちゃうっていうのが、いやー、すごいなあと思って。

あと、マジプシー。
もうあの逆説的なすごさっていうのかな。
なんかもう、ほんとうにすごいですよね。「すごい!」って思いましたもん。
やっぱ「神だ!」って思いましたもんね、なんか(笑)。

普通に「神だ」というふうに神々しく描かれるよりも、
「ああ、すごい人なんだ」っていうふうに思いました。
絵も、ドット絵なのに表現がものすごくて。
あの、脚を組み替えるところとか、
あそこだけに命懸けてるなと思いましたもん。
ほんのちょっとしか出てこないのに(笑)。
ぼくのつくる音楽もそうなんですけど、でっかい目標というか、
向かう先にも命懸けるんですけど、過程の細かいところにも
やけにマジになっちゃうんですよね(笑)。
ヒモヘビとか、マジプシーの脚の組み替えに
反応しちゃうのも、そういうことかもしれませんけど。

ああいうものを見ると、糸井さんが開発のスタッフに
「酸素補給マシンはこうなんだよ!」って
言ってるときはたのしいんだろうなあって思うんです。
で、それって、たのしいと同時に、勝負のときでもあるんですよね、きっと。
ぼくも、バンドのメンバーになにかを伝えるときって
そういう感じなんですよ。
「ここで、ピーン! みたいな音」とか(笑)。
「宇宙だよ、宇宙」とか(笑)。
そういうつくり方まで、いっしょなんですよねえ。
いや、継承しちゃったんです、きっと。
もっとテクニック的に伝えられるものなら伝えたいものなんですよね、
こっちとしても。
でも、それで伝えたら終わりっていうものもあるんですよ。
その、可能性を狭めちゃうっていうか。たぶん、やり方も知ってるんですよ。
こういうふうに伝えれば、こういうものができて、
リスクとメリットがこれだけあって、とかわかるんですけど、
でも、言ってみたいんですよね。「宇宙だよ、宇宙」って(笑)。
だって、もしかすると、僕が宇宙だって言えば
自分が知らない宇宙が返ってくるかもしれないっていう期待がありますから。
それが醍醐味なんですよね、人とやるときの。


★MOTHER3のきもち/中村一義★

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