(カトリに頼んだ「子どもからのファンレターの返事」の代筆を読んで)
「じゃあ、これは!」とアンナはつづける。 「注釈はどこよ?この子は兎を描こうとした。どうみても才能はない。 でも、書けたはずだわ。絵は仕事机の向かいに掛けてあるとかなんとか…。 ほら、スケートを始めたって。猫の名前はトプシー。 スケートと猫の話で一枚まるまる埋められる、大きい字で書けばね。 あなた、せっかくの素材を使いきっていない」 「アエメリンさん」とカトリはいう。 「あなたこそずいぶんシニカルですね。どうやって隠しおおせてきたんです?」 アンナは聞いていない。手紙の束に手をおき、説明をつづける。 「もっとやさしく!もっと大きな字で!わたしの猫の話も。 描写して、その猫の仕草を…」 「猫なんか飼っていないじゃないですか」 「かまわないわ。感じのいい手紙を返す、それが肝心…。 心得ておいて。でも、あなたにできるかしら。子どもは好きじゃないでしょう?」 カトリは肩をすくめ、例のすばやい狼の薄笑いを浮かべた。 「それはあなたも同じですね」 アンナの頬にさっと赤みがさし、会話はうち切られた。 「わたしの好き嫌いはどうでもいい。 この人は信頼できる、そう子どもに思わせなければ。 子どもを裏切ることはできないのよ。今日はもう疲れたわ」
★誠実な詐欺師/トーベ・ヤンソン★
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