お金は臭うと人はいう。 それは嘘だ。お金は数字と同じようにきれいだ。 臭うのは人間のほうで、だれもがそれぞれ隠された臭いをもっている。 いやな臭い。 怒ったり、恥じたり、怖がったりするとき、臭いは強くなる。 犬はそれを感じとる。瞬間的にわかるのだ。 わたしが犬だったら、わかりすぎていやになるだろう。 でもマッツには臭いがない。あの子は雪のようにきれいだ。 わたしの犬は大きくて美しく、わたしに服従する。 あの犬は私が好きじゃない。でも、わたしと犬はお互いを尊重する。 わたしは秘密めいた犬の生活、本来の野生をいくらかはとどめている 大きな犬の秘密を尊重する。 だからといって信頼はしない。 自分をじっと観察する大きな犬をどうして信頼できよう。 人びとは<人間みたいな>特質を犬に押しつける。 気高さとか愛想のよさとかいったものを。 犬は口をきかず、人間にしたがう。 でも、わたしたち人間をじっくりと観察して知りつくし、 わたしたちのみじめさを嗅ぎつけてしまった。 それなのにあいかわらず人間につきしたがう。 この信じがたい事実をまのあたりにして、驚き、感じいり、 うちのめされるべきなのだ。
★誠実な詐欺師/トーベ・ヤンソン★
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