パルフィー氏は、しばらくドアを見つめていたのち、 ベーゼンドルファーのピアノの方に歩いてゆき、自作の子どものオペラの譜をめくり、 その一枚を抜き出して、キーの前にこしかけます。しばらく譜を見てひきます。 古い教会旋法の一つで、厳格で簡素な典則曲です。 それから、調子を変えます。中世期の協会旋法からハ短調へ。 ハ短調から変ホ長調へ。ゆっくりと、まったくゆっくりと、 パラフレーズの中から新しいメロディーが、からを破って出てきます。 単純で、心を奪うメロディーです。 ふたりの小さい少女が、澄んだ清い声でうたってでもいるように。 夏の草はらの上で。青い空をうつしている涼しい山間の湖のほとりで。 ──それはどんな分別よりも高い空です。 その太陽は、善人だろうと悪人だろうと、煮えきらない人だろうと区別せずに、 万物をあたため照らすのです。
★ふたりのロッテ/ケストナー★
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