私は色々なことを思い出す。 彼女は太陽の塔を見上げている。鴨川の河原を歩きながら、「ペアルックは厳禁しましょう。 もし私がペアルックをしたがったら、殴り倒してでも止めて下さい」と言う。 琵琶湖疏水記念館を訪れ、ごうごうと音を立てて流れる疏水を嬉々として眺めている。 私の誕生日に「人間臨終図巻」をくれる。駅のホームで歩行ロボットの真似をして、 ふわふわ不思議なステップを踏む。猫舌なので熱い味噌汁に氷を落とす。 ドラ焼きを二十個焼いて呆然とする。私が永遠にたどり着けない源氏物語「宇治十帖」を愛読する。 コーンスープに御飯をじゃぼんと漬けて食べるのが好きと言う。 大好きなマンガの物語を克明に語る。録画した漫才を一緒に見ましょうと言う。 何かを言った後に、自分はひどいことを言ってしまったと悲しむ。 下鴨神社の納涼古本市に夢中になる。雀の丸焼きを食べて「これで私も雀を食べた女ですね」と言う。 よく体調を崩して寝込む。私が差し入れた鰻の肝で蕁麻疹を出し、 かえって健康を害する。招き猫と私をぴしゃりと冷たくやっつける。 初雪を前髪に積もらせる。 「私のどこが好きなんです」と言って私を怒らせる。 憂鬱になって途方に暮れる私を前にして、同じように途方に暮れる。 私が投げつける苛立たしい言葉を我慢する。 夕闇に包まれた鴨川の岸辺を歩く、夜の下鴨神社を歩く、明るい万博公園を歩く。 きらきらと瞳を輝かせて、何かを面白そうに見つめている。 何かを隠すようにふくふくと笑う。彼女は黙る。彼女は怒る。彼女は泣く。 そして彼女は眠る。猫みたいに丸まって、傍らに座る私を置いて、夜ごとに太陽の塔の夢を見る。
★太陽の塔/森美登美彦★
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