ある人に 枇杷の実が熟つたから お子さんをつれて採りにいらつしゃいと言つたら その人は子供を五人ばかりつれて 日曜の朝 一つも残らず採つて行つてしまつた
実際一つものこさず きれいに木を裸に剥いてしまつて 微笑ひながら帰つて行つた
わたしの家のものは まだその枇杷の実を一つも食べてゐない みんな楽しみに熟れるのを待つてゐたのに 私のお世辞が木を裸にしてしまつた
五升ばかりあつたのを その人はバスケツトに入れて持つて行つたのだ すこしは私の家にも置いて行くだらうと思つてゐたのに
あとで 私のうちのものが集まつて さびしさうに枇杷の木を見あげた いくらなんでも あんまりひどい人だと みんな口口に言ひあつた。
★枇杷の実/室生犀星★
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