ブラックが家に来た。「快楽亭ブラック」弟子である。 立川流の顧問吉川潮氏に連れられて理由(わけ)は“お詫び”と報告という。 何ともハヤ競馬で金を取られ一千五百萬とか。 知人、仲間、親族、といったって奴ァ天涯孤独、親族とは嫁さんの親方ということになる。 これに加えて何と弟子に口座を作らせその金を使い、 果てはその弟子の家に内弟子ならぬ内師匠を決め込み、サラ金、ヤミ金融、 どうにもならぬという。 “死にゃいいだろうに”に“それも考えた”とサ。考えただけ、だそうだ。 まるでガキ、何の設計もない。 収入がなきゃ、それを補うか、喰わずにいるしか手段はないのに、この始末。 別に女でもなし、高価なものを欲しがるのでもなし、唯お飯ンまを喰いたいだけでこうなった。 競馬で穴を埋めよう、なんざァ呆れ果て、むしろ立派、これぞ咄家の見本である。 女房は泣く泣く離婚、奴ァ山谷のドヤ街での暮らし。 “一年半で何とかなります”とまるで文七元結の長ベヱだ。 で当方は面白いけど何ィするか判らないので出入り止めにした。 奴が来たら逃げるか、殴るか、飯だけ(お菜は塩で充分)喰わせるかして追い出すべし。 それとも千五百萬貸してやる酔狂な御仁は“おりませんかいなァー”…いる訳がない。 助けたってまたやるはづだし、やらないと己の人生、過去が無意味になるし…。
★快楽亭ブラック脱会について/立川談志★
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