なぜか、この人のこと、前から聞いていた。
絵本作家の佐野洋子さんのエッセーでは、
〈世間も浮世も無いらしく、役に立たない事だけを云う〉、
白髪のゴッホみたいな顔をした古道具屋さんとあった。
ピカーッと目を光らせる息子がいて、それが芥川賞作家の長嶋有とのことだった。
つげ義春の漫画「無能の人」のモデルといううわさもあり、
「ニコニコ通信」という面白い手書き新聞を出しているとの便りも聞いた。
◇
開業して四半世紀たつお店には、人形、古時計、ブリキのオモチャから
用途のよくわからないものまで所狭しと並んでいた。
「わりとかわいそうな見てくれの、バカっぽいものを集めるのが好きですね。
徹底して追求しているわけではありませんが……」
値段は、「体内価格」で決めるという。
「コーヒー1杯ならいくらという感じがあるでしょう。
でも自分の『体内価格』と世間の相場はズレているみたいで……。
もうけ損ない、悔しくて眠れなくなることもある」
と語るが、とても商売熱心には見えない。
物を書き始めたのは10年ぐらい前からで、
「愚痴やら、これだけは言いたいこと、といっても大したことはありませんが、
それを書いて、勝手にお客さんや友人に送りつけてきた」そうだ。
どうにもつかみ所がないが、時間や世の常識をあまり意に介さないところは、
文章の感じそのまま。
一度だけ明言したのは、「無能の人」のモデルではないとのこと。
ただ、つげさんとは知り合いで、なんとなく牛乳瓶のフタを売っていたら、
買ってくれたのがつげさんだった。長嶋さんは「こんなものを買う人がいるのか」と思い、
つげさんは「売る人も売る人」と思ったそうだ。
なんか、こーっ、ユニークな人なのであった。
★本よみうり堂(6月24日)/長嶋康郎さんのインタビュー★
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