その高見さんがいつだったか上京して泊めてもらっていたとき、
大森の(洲之内さんの)アパートに空巣が入ったことがある。
扉の錠が壊され、部屋の中が荒らされていた。
しかし、押入れに箱に入れて無造作に並べてあった中村彜や林武をはじめ、
相当な根がつくはずの絵には泥棒は気づかなかったのか見向きもせず、
また雑然とした机上に置いてあった円空仏もそのままだった。
洲之内徹によると千七百円だか盗られたそうだが、
結局そのあとも新しい数字合わせの錠をつけただけで、盗難保険も火災保険も最後までかけず、
蠣殻町に移ってもその収納場所やはり押入れだった。
★水面に映る風景 洲之内徹の東京/関川夏央★
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