おぼろに人物の姿が浮き上がってきたころ、ぼくは床についた。
そして、木槌の音や、彫刻刀が木を削る小気味のいい音を聞きながら眠りに落ちた。
翌朝、茶の間のすみっこの小机の上に完成した彫刻が置いてあった。ぼくは驚いた。
それはばあちゃんの彫刻だった。着物を胸をはだけてずるりと着たばあちゃんが、
左手に庭箒、右手に小さな本のようなものを持って天を仰いでいる。
タビックスに草履をはいた右足で踏んづけているのは、鬼だ。
鬼は泣きそうな顔をしている。
「なかなかいいだろう」
起きてきた父が欠伸をしながら言った。
「四天王像をヒントにして彫ったんだよ」
「うん、すごいよ、これ!ばあちゃん、強そうだね。右手に持ってるのはなーに?」
「信用金庫の通帳だ」
「あ、そーか!鬼をやっつけてるんだね」
「病気をもたらす邪気を退治してるんだよ」
「これでばあちゃん、きっと良くなるね」
「あと二百年ぐらい生きるだろう。これ、お前がばあちゃんとこに届けといてくれ」
★松ヶ枝町サーガ/芦原すなお★
|