すでに許された時間はオーバーしていた。
ローレンツさんは、海洋博事務局で用意したレセプションに出なければならなかった。
通訳氏が腰を浮かせた。私は思い切ってたずねた。
「私は犬や猫などの家畜が好きです。と同様に、野生動物であっても、
家畜と同じように親しくなって、気持ちの通じ合うようにならないと満足出来ません」
「それで?」
「動物が人間に必要以上親しくなって示すことは、学問的には無価値という考え方もあります」
「ノー。それは学問を狭く考え過ぎています。もっと広いものです」
「野生動物と友達になるのはいけないという思想もあります。
ルールを無視してはいけないでしょうが、
私は、抱いたり頭をなでたりしなければ接した気になれないのです」
「いいじゃありませんか」
「動物が私に語りかけます。私はそれに聞き惚れます」
「それでいいのですよ。初めに言ったでしょう、私たちは珍しい人類だと。
クレージーなんですよ。それでいいのです。
私にもあなたにも、動物になっちまう権利と資格があります。動物の親友なんですよ。
動物を人間の世界に引張りこんで奇形化したと考えるより、
動物の世界に入りこんで、私たちの一部が動物と化していると考えるべきでしょう。そこですよ」
「はい」
★動物の親友/畑正憲★
■コンラート・ローレンツさんとの対談での話。 たぶんローレンツ博士はこの時70代前半で、畑さんは30代の後半。
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