「ミッキーマウスの声って変だよな」俺は言ってみた。
「どこが」
「オカマみたいじゃん」
「ネズミなんだからいいの」瀬奈は布団から起き上がったようだ。
ミッキーマウスに関するあらゆる批判を許さないという剣幕だった。
「じゃあ、グーフィーっているだろう」
「いる。グーフィーの消しゴムもってる」
「プルートってのもいるだろう」
「いる」
「両方、犬だよな」
「そうだよ」
「どうしてグーフィーは二足歩行でミッキーと会話ができるのに、
プルートは四つ足で歩いてミッキーに飼われているんだろう」なんでだ?
プルートがかわいそうじゃないか。前から漠然と感じていたことを訊ねてみた。
すこし意地悪な質問をした気分でいた。しかし瀬奈はまったくめげずに即座に
「そんなの決まっているじゃない。プルートには彼女がいないからだよ」
といったので俺もさすがに返す言葉をなくした。
「一人だけ彼女いないのに、皆と一緒に二本足で歩いていたら、やりきれないじゃないのよ」
「そうかな」
「そうだよ」暗がりから勝ち誇った声がする。
★タンノイのエジンバラ/長嶋有★
|