以前『アックス』って雑誌で佐伯俊男さんていうイラストレーターの方が
おっしゃってたことを思い出した。
「俺ね、かみさんが死んだとき骨バクバク食ったよ。残りは海にまいた。
だからかみさんの墓は俺の体の中にあるんだよね」みたいなことなんだけど
「そうだよな、人、人の中から出でて人の中へ帰る。なんて正しいことなんだろう」
と私はその発言にえんらく感動して、かみさんに聞いたのだった。
「俺も墓いらない。俺が死んだら俺の骨食ってくれるか?」
かみさんはなんのためらいもなく「うん。松尾ちゃんが死んだら、骨全部食べるよ」
と答えるので「全部、って量的に大変だぞ」と別の方面の心配をするも
「ううん。全部食べるよ」と言うのである。
私はほとんど感涙にむぜびそうになったんだけど、
よく考えてみるとかみさんの喋っていることは八割は実現しないことで一割は寝言なので、
まあ、残りの一割、一割で手を打とう。
でも、俺を一割も食べてくれるんならこの「週に三回飯を作ってくれたら、当たり」
みたいな女の人のために休まず死ぬまで働いてもいいのかなあ、と思ってがんばっている。
★寝言サイズの断末魔/松尾スズキ★
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