ディスプレイに向っている奥山有紀子に、後ろから声をかける。
「窓の外を見て」
奥山有紀子は窓の外を見る。
「見えるだろう。あれが曇天の午後四時だよ。正確には午後四時五分。こわいんだ」
奥山有紀子はゆっくりと振り向いて私を見た。その目が面白そうに輝いている。
「ほむらさん、なにどしですか」
私は自分の干支を答える。
「わたしとおんなじですね」
私はくるっと振り向いて、ふらふらとエレベータの方へ歩き出す。
両眼から涙がたらたら流れている。
おんなじですね。おんなじですね。おんなじですね。
そのひと言がたまらなく優しい言葉に思われて、心の中で何度も繰り返す。
おんなじですね。おんなじです。
★曇天の午後四時からの脱出/穂村弘★
■穂村さんのは抜き出すと、抜いたとこの 後とか前とかがいいような気がしてきて、 でもそっちを書くとそれも違う気がして、いつももやもやした気持ちに。
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