街にも山にも海にも、アマチュア・カメラマンは生息する。
少々お歳を召したからだにカメラマン・ベスト
(ポケットのたくさんついたやつ)をまとい、帽子にループタイ、
首からも肩からも見るからに高そうなカメラをたくさん下げたアマチュアさんたちを、
君もしばしば目撃するだろう。
こういうマニアたちが、実は日本のカメラ業界、フィルム業界、
中古カメラ屋業界を下支えしてきたわけだが、
しかしアマチュアが写真メディアの前面にフィーチャーされることはほとんどない。
写真美術館で彼らの作品を見ることはできないし、
お洒落な写真集となって出版されることもない。
彼らの写真に接することができる機会は、
アサヒカメラや日本カメラといったカメラ雑誌
(これも日本だけにしかないユニークなメディアである)か、
書店の自費出版コーナーに細々と並べられる薄っぺらな「写真集」くらいのものである。
そして僕にはこういうアマチュア・カメラマンたちの写真が、
いま愛おしいといえるほどに興味深いのだ。
◇ 数年前に出会った、大阪のアマチュア写真家がいる。
七十歳を越えた彼はありあまる財産を武器にもう四十年近くも、
素人の女の子をモデルに雇い、奇妙なヌード写真を撮りつづけて飽くことがない。
彼のあまりにユニークな画面構成に惚れ込んだ僕は、
お願いして文庫版の写真集を三年前に自費出版させてもらったほどなのだが、
彼は一九七〇年代の初め頃にちょくちょく東京を訪れては、
当時の有名カメラマンに作品を見てもらっていたという。
そのひとりに
「君はたくさん写真を撮ってるみたいだが、たくさんの中から一枚の傑作を生み出す、
一点傑作主義を目指しなさい」
と、至極まっとうなアドバイスを受けたことがあるそうだ。
そこで彼が一点の傑作を目指したのかというと、そうではなくて、
「そんなのはプロの考えることだ。アマチュアである自分は、世間に作品を発表する必要も、
それを評価される必要もない。だから自分は一点傑作主義を排し、
駄作の海に沈没する、駄作羅列主義に生きよう!」
と決心したのだという。
★駄作の大海/都築響一★
|