滝田 絶えず地べたに倒れていたという感じですね。
いまも、倒れてみないとわからないですね。
やはり目の位置があるから、あのへんで地べたにぴったり倒れて見ると
あのころの気分がよみがえってくるんです(笑)。
まだ、新宿の中央口のほうにトイレがあったころですけれどもね。
あのころは道がすごく悪くて、倒れたらそれっきりという感じでね。
◇
吉行 玉の井というのは、外の人間にとっては、飾り窓であって、
抜けられますという迷路で、陰気な、陰惨な代名詞みたいなもので、
それがまたよくていくというのがいて……。
住んでいる人にとってはどんな感じでしたか?
滝田 やっぱり開けっぴろげなところがあったんじゃないですか。
陰気じゃないですね。だから、下町人情どうのこうのより、
エゴ丸出しみたいな部分があったように思います。おふくろがとくにそうでした。
吉行 そうとうすごいおふくろさんがいて、お灸ばかりすえられていりゃ、
町の陰気も陰惨もないんだね、これは。
滝田 明けても暮れても怯えていて、蒲団に入って寝るときが楽しいのと・・・。
吉行 まるで軍隊生活ですね。
◇
吉行 今日は玉の井の話を聞こうと思ったけど、おふくろさんが前に立ちふさがっちゃって。
玉の井を滝田さんは地べたに寝てながめているのかと思ったら、
上から鳥瞰的でなければ見れない形になっていたわけだなぁ。
★吉行淳之介エッセイ・コレクション4/吉行淳之介×滝田ゆう★
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