立川 ぼくらがそのひとの噺を聞きたいと思って、
そういう噺家になりたいと思っている師匠が出てるのに、帰る客がいる。
ほんとうに胸ぐらつかまえて「おまえ、ここになにしに来たんだ」といいたくなるくらいですね。
文楽師匠が出ると帰る客がいるわけですよ。ほんとに、そういいたいですね。
「なにしに来たの。落語聞きに来たんじゃないの。これが落語ってもんだよ。
これが落語だよ」って。
吉行 あなたはほんとうに落語が好きなんだな。
立川 好きですね。ぼくがいちばん好きなんじゃないかと思う。
ときどき寄席の外に出て、看板を見上げるんですよ。
桂文楽、古今亭志ん生、三遊亭圓生、柳家小さん・・・と名前が並んでて、
あとのほうに立川談志と書いてあるでしょう。
心の底から嬉しさがこみあげてきて、ああ、おれはいい商売を選んだと思いますね。
★吉行淳之介エッセイ・コレクション4/吉行淳之介×立川談志★
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