でもそれが事実だろうと俺は構わなかったのだ。
俺は結局マリックを許しただろう。
それも俺が今思うよりもずっと簡単に俺はマリックを許しただろう。
なぜならマリックは俺の友達で俺の分身で俺はマリックのことが好きだったからだ。
◇
事故の現場にはブレーキの痕もちゃんとあった。
だから自殺したのではない。あいつは俺にシートベルトを締めろと言った。俺を守るためだ。
俺は助かった。あいつが俺にシートベルトを締めろと言ってくれたせいかどうかは判らない。
スピンが始まったらシートベルトを締める余裕なんてないと思う。
だから俺は言われなくても最初からシートベルトをしていて助かったのだろう。
もちろん俺が問題にしているのは俺がどのようにして助かったかではなくて
マリックがどのように死んでいったかだった。
マリックは俺に確かに言ったのだ。
「奈津川シートベルトを締めろ!」
★煙か土か食い物/舞城王太郎★
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