宿題

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2004年04月07日(水) 向田邦子の恋文/向田和子
終戦後、満足に食べ物がなくて、ナンキンマメは貴重品だった。

姉の大好物でもあった。夜遅く、姉が1人で勉強している時、

そっと、そっと襖を開けて、

「お姉ちゃん、これ、あげる」

ひとにぎりのナンキンマメを私が手渡したらしい。

「その時、あんたって、いい娘だな、って思った」

姉は照れくさそうにポロっと言った。私が日本橋の会社に勤めていた頃の話だ。

姉にお昼をごちそうになり、高島屋の呉服売場をのぞき、

ペットショップで犬や猫に声をかける。

交差点を渡って、丸善に行くのが姉のお決まりのコースだった。

信号待ちのほんのわずかな間だった。

「それ以来、ずっといいやつと思っているのよ。じゃあね」

声をかける間もなく、姉は人ごみのなかに消えていた。

なんだって!

今度はこっちが覚えてない。

あげたというなら、靴下やセーターを編んであげたじゃない!

あれはきっとダサくって、気に入らなかったんだ。

それにしても、かれこれ三十年も、ひとにぎりのナンキンマメで、

いいやつと思い続けている姉。


★向田邦子の恋文/向田和子★

マリ |MAIL






















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