「あー!いらっしゃい、カスバートさん。今日はどんなものを?」
「ああ…そうだな…、実はその…おたくには、ああ…熊手はあるかな」
「(驚いた目をしつつ笑顔で)そうですねぇ、12月にはお店に熊手は置かないんですが…。
2階を見てきます、1本くらいはあるかも」
(マシュウため息。熊手を持って笑顔で帰ってくるお店の人)
「1本だけありましたよ」
「ああ…良かった」
「他にお入用のものは?」
「そうだな、せっかく来たんだし…あー…干草用の…種をもらおうか」
「(再びびっくり)干草用の種は春まで置かないんですよ」
「ああ…そうか…そうだな(くるっとまわって帰ろうとする)」
「ああ!熊手は75セントです、カスバートさん」
(お金を払うマシュウ)
「あ…あ、せっかく来たんだし、もしあまり…迷惑でなかったら、その…」
「なんでしょう…?」
「砂糖」
「お砂糖?」
「そうだ」
「白か黒、どっちを」
「ん、あー(一人でうなずく)どっちがいいかな?」
「そうですねぇ、黒砂糖のいいのが入ってますけど。如何ほど差し上げましょう?」
「あー…20ポンドで十分だろう」
「ええー、20ポンドもあれば十分でしょうね」
(重そうな1袋を抱えて持ってきてドンとマシュウに渡す)
「はい、1ドルです」
「(1ドル渡して、真面目な顔で)ドレスが欲しいんだ」
(厳しい顔で乗り出すお店の人)
「そのな、パフスリーブの」
「(眉毛を動かして)…パフスリーブの?」
「アンのだ」
「(笑って)まあ!そうだったんですか!早くそうおっしゃって下されば良かったのに!
さあ、ショーウィンドーをごらんになって!」
(マシュウ、ほっとして深いため息)
グリーンゲイブルズ。
マリラが台所にいると、アンがドレスを着て飛び込んでくる。
「ああ!すごく素敵!」
「(冷静に)それで黒砂糖をね、どうもおかしいと思ってたの」
「マリラ、パフスリーブよ」
「おかしな袖。入り口を通る時、横向きになるの?」
「(くるっと回って)夢みたいだわ」
「これで満足したでしょう。いつまでも孔雀みたいにみせびらかしてないで、
2階に行って早く脱ぎなさい」
「マシュウに見せなくちゃ!(飛び出す)」
「黒砂糖を20ポンドも買ってくるなんて」
牛の世話をしているマシュウ。
アンは言葉が出ないで立っている。マシュウが気付いて。
「クリスマスのプレゼントにするより、ダンスパーティーに着て行きたいだろうと思ってな」
(アンは深刻な顔)
「(心配そうに)気に入らんのか?」
「(厳粛な声で)まさか。私が想像した、どんなドレスより、すばらしいわ」
「(にこにこしてうなづいて)パフスリーブだ」
「世界一のパフよ、マシュウってすごく趣味がいいのね」
「ドレスが汚れるといかん(言い切らないうちにアンが抱きつく)」
★赤毛のアン/ケヴィン・サリヴァン★
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