天気のいい日だった。
頭上には青空だ。
向こうから笑いながら近づいてくる人がいたのだ。
もちろん女と私は、ワークショップで学ぶ者と教える者の関係だ。
恋人同士だったらお互い笑いながら近づきあうのもよくあることだろう。
距離はこれ以上ないほど接近し、笑顔とゼロに近い距離が二人の関係を強調する。
そのときの、女の笑いと接近は、恋人同士のそれとはまったく異なるもので、
わからないと困惑しているうち、それがひどく幸福なことに思えてきた。
なにしろ笑っている。見上げると青空。そして言うのである。
「本、読みました」
きっと私はそれを待っているのだと思う。笑いながら近づいてくる人だ。
言葉にするのはむつかしいがそれはきっと、幸福な距離の取り方、
まさにそれこそ「青空の方法」ではないか。
★青空の方法/宮沢章夫★
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