死ぬというのは「やっぱりなぁ……」と思う。
「やっぱり」のあとに何がつづくのが一番いいのかわからないけれど、
つまりは生きている側から一方的に輪郭を与えられてしまう。
しかしそんなことよりもぼくは小実昌さんから好かれていなかった。
たまに「あの頃絶対好かれてなかったよな」と思い出すことはあっても、
小実昌さん本人に会っていたとき思い出したりしなかった。
小実昌さん自身もきっと忘れていただろうし、憶えていたとしても
「忘れた」と言っただろう。
「講演」といっても、百人くらいの割と小じんまりしたものなので、
話す方も自然に、前にいる人に話しかけるというような感じで、
その中で小実昌さんが
「ここの係りの保坂さんていうのも、おかしな人でねえ。
『お願いします』って電話かけてきてぼくが『いいですよ』って言ったら、
『エッ!ホントですか!』なんて言ってやんの」
というのを聞いて、ぼくはあの講座の時の「好かれなかった」とか
「嫌われた」とかいうのは、もうなくなったと思った。
★小実昌さんのこと/保坂和志★
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