「お墓って人類の発明よね、死んだ人を忘れないように。
でも、安心して忘れなさいっていうために、作られたものだと思うわ」
「出張で帰ってきたの?」
「え。あ、いやー」
「あ、休みとって?」
「ええ、まぁ…」
「そんな勤め始めたばっかなのに、休んで大丈夫なの?」
「ちゃんとワケを話してきましたから」
「ワケって?」
「僕の大事な人の猫がいなくなったんで、あの、休みます、って」
「え?え、それだけで休みとって帰ってきたの?わざわざ札幌から」
「それだけでって言うけど、大変な事じゃないですか。
ツナヨシがいなくなったなんて、僕にとったら一大事ですよ」
「……よく休みとれたね」
「社長が、それは大変だから行ってやれって」
「うそだ」
「いや、本当ですって」
「そんな。そんな会社の社長さんがそんなこと言うわけないじゃん。
たかが……猫のことで。そんなのありえない」
「いや、本当なんです。行ってやれって。僕もびっくりしたんです」
「うわー、ね、これってお母さんの手作りっすか?」
「もーこればっか。他に作るもんないのよ、オフクロ」
「そんな貴重なもの、うちで食べちゃっていいんすか?」
「いいのいいの。うちのやつ、全然食べないから」
「なんで?んまい!んー」
「なんかね、魚の目が怖い!とかってぶりっこすんのよ、うちの奥さんは」
「ふーん」
「誰も食べないから送ってくんな、なんて言えないしさ、オフクロに」
「ん?間々田さんも食べないんすか」
「いや、うちのやつがね、キモチワルーイとか言い続けるもんだから、
食べられなくなっちゃってさ」
「こんなにおいしいのに」
「や、昔はね、大好物だったのよ。家族が変わると好みも変わるもんなのよ」
「いやしかしうまいなこれ」
お父さん、人の縁て誰が作ってるんでしょうね。
聞いた話では、神様があっちのひもとこっちのひもを持ってきては、
テキトウに結んだりしているらしいです。
昨日会うこともなかった人が、今日なくてはならない人になってるなんて、
他に説明のしようがないんですから。
ちょっとしたことですぐにほどけて傷ついたり、なかなかほどけなくてイライラしたり。
そしてどんなに親しくなっても、最後は必ずほどけて終わりがくるのです。
★すいか/木皿泉★
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