「ねえ、笑いごっこしない?」
点子ちゃんは、アントンがやりたいか、やりたくないか、まるでおかまいなしに、
アントンの手を取って、つぶやいた。
「ああ、ああ、笑う気分じゃぜんぜんないわ。あたし、とっても悲しいの」
アントンは、きょとんとして点子ちゃんを見た。
点子ちゃんは、目を見ひらいて、おでこにしわを寄せている。
「ああ、ああ。笑う気分じゃぜんぜんないわ。あたし、とっても悲しいの」
点子ちゃんはくりかえした。それから、アントンをつねって、ささやいた。
「あんたもやるのよ!」
アントンは点子ちゃんの言うとおりにした。
「ああ、ああ、笑う気分じゃぜんぜんないわ。あたし、とっても悲しいの」
「あたしこそ」
点子ちゃんは、ぐっと気持ちをこめて、つぶやいた。
「ああ、ああ、笑う気分じゃぜんぜんないわ。あたし、とっても悲しいの」
そして、ふたりの目が合うと、ふたりともわざとらしい悲しげな顔つきをしていたので、
げたげたと笑いころげた。
「ああ、ああ、笑う気分じゃぜんぜんないわ。あたし、とっても悲しいの」
こんどはアントンがやり始めて、ふたりはますます笑いころげた。
しまいには、目をあわせることもできなくなってしまった。
ふたりは笑って笑って、とめどがなくなり、息もつけないほどだった。
人間のほうが、立ち止まっている。ピーフケは、おすわりをした。
このふたりも、とうとうおかしくなったか、とダックスフントは考えた。
点子ちゃんはピーフケをだきあげた。そして、子どもたちは歩いていった。
けれども、ふたりともそっぽを向いていた。
そして、点子ちゃんが何度かくくっと笑って、笑いごっごはおしまいになった。
「あーあ!」
アントンが言った。
「くたびれた。完全に笑いすぎだ」
アントンは、笑い涙をぬぐった。
★点子ちゃんとアントン/エーリヒ・ケストナー★
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