(孫の爪を切るおじいちゃん) 周吉「ほら、よし。綺麗になっただろう?」 勇「うん」 周吉「ほら、ご褒美やるぞ。(缶からビスケット出す)おじいちゃん好きか」 勇「うん」 周吉(ビスケット渡す)「大好きならもっとやるぞ」 勇「大好き」 周吉「そうか、ほら」(何回か繰り返す) 勇(もらうだけもらうと立ち上がって逃げながら)「キライダヨーッ」
実「勇、またおじいちゃんにキャラメル食わしてみろよ」
(勇がおじいちゃんにひとつキャラメルを渡す)
実「あ、また紙食っちゃった!」
実「おい、勇! レールだぞ。レール買って来たぞお父さん! しめしめ、凄いなあ、凄い凄い!」
(横から手を出す勇を払いのけて)
実「待ってろ! あわてんな! ヘヘ、ありがてえな、しめしめ!」
(包みを開けると出てきたのは食パン)
実「なあんだ、チェッ!」 勇「パンだねえ…」
佐竹「おっかしな奴だよ。昔からあんな奴かい?」 アヤ「そう」 佐竹「だれかに惚れたことないのかい?」 アヤ「さあ、ないでしょ、あの人。学校時分ヘップバーン好きで、ブロマイドこんなに集めてたけど…」
佐竹「なんだい、ヘップバーンて」 アヤ「アメリカの女優よ」 佐竹「じゃ女じゃないか」 アヤ「そうよ」 佐竹「変態か?」
アヤ「まさか!」
佐竹「いやあ、そんなとこだよ。おかしな奴だよ」
紀子「だけどあたし、おばさんから言われた時、すーっと素直にその気持になれたの。
なんだか急に幸福になれるような気がしたの。だからいいんだと思ったの」
周吉「いやあ、わかれわかれになるけどまたいつか一緒になるさ。
いつまでもみんなでこうしていられりゃいいんだけど…そうもいかんしねえ…」
康一「お父さんもお母さんも、また時々は大和から出て来て下さいよ」 周吉「ん…」 紀子「すみません、あたしのために…」
周吉「いやあ、お前のせいじゃないよ。いつかはこうなるんだよ」 志げ「紀ちゃん、身体を大事にね、秋田は寒いんだっていうから…」 紀子「ええ…」 周吉「ああ、ほんとに気をつけておくれよ…大事にな…。そうすりゃ、またみんな会えるさ」
★麦秋/小津安二郎★
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