次郎「君ってほんとうにきれいだ。でも皮をむけば、やっぱり骸骨なんだ」
美女「え?」
次郎「皮をむけば、やっぱり骸骨なんだよ」
美女「あらいやだ、あたくしそんなこと考えてみたこともないわ(思わず顔にさわってみる)」
次郎「骸骨に美人なんてあるかい?」
美女「そりゃあ、あるでしょうよ、きっと」
次郎「すごい自信だな。でも今キッスされたときね、君の頬っぺたの下でね、
君の骨が笑っているのが、僕にはわかったよ」
美女「顔が笑えば、骨も笑うわよ」
次郎「ふん、あんなことを言ってる。こう言わなくちゃいけないよ。
顔が笑うとき、骨は笑っているんだ、それはたしかさ。
しかし顔が泣いているときも、顔の骨は笑っているんだ。
骨はこう言っているんだよ、笑わば笑え、泣かば泣け、今に俺の天下が来るんだ、ってね」
美女「骨の天下!すてきね、そんなことを考えるの」
次郎「女の批評って二つきりしかないじゃないか。『まあすてき』『あなたってばかね』
この二つきりだ」
美女「なんて可愛らしい辛辣な坊やでしょう(女いといげに次郎を見る)」
★邯鄲◇近代能楽集/三島由紀夫★
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