宿題

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2003年04月30日(水) 猫と庄造と二人のおんな/谷崎潤一郎
二三日前にふと気が付いたことと云うのは、女房の不平を犯してまでも食膳に上せる程のものを、

庄造は自分で食べることか、リリーにばかり与えている。

それでだんだん考えてみたら、なるほどあの鯵は姿が小さくて、骨が柔らかで、

身をむしってやる面倒がなくて、値段のわりに数がある、それに冷たい料理であるから、

毎晩あんな風にして猫に食わせるにはもっとも適している訳で、

つまり庄造が好きだと云うのは、猫が好きだと云うことでなのである。

此処の家では、亭主のためと思って辛抱していた女房は、

その実猫のために料理を与え、猫のお付合いをさせられていたのだ。

「そんなことあれへん、僕、いつかて自分が食べよう思うて頼むねんけど、

リリーの奴があないに執拗う欲しがるさかいに、ついウカッとして、

後から後から投げてしまうねんが」

「嘘云いなさい、あんた始めからリリーに食べさそう思うて、好きでもないもん

好きや云うてるねんやろ。あんた、わてより猫が大事やねんなあ」

「ま、ようそんなこと。……」

仰山に、吐き出すようにそう云ったけれど、今の一言ですっかり萎れた形だった。

「そんなら、わての方が大事やのん?」

「きまってるやないか!阿保らしなって来るわ、ほんまに!」

「口でばっかり云わんと、証拠見せてエな。そやないと、あんたみたいなもん信用せエへん」


★猫と庄造と二人のおんな/谷崎潤一郎★

マリ |MAIL






















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