ワーワーと大歓声。
十人くらいの大人が走っている。
中の一人がこっちへ突進してくる。ランニング姿で汗ビッショリになって。
誰かの手がぼくをその男に手わたす。男はぼくを小わきにかかえて猛然とつっ走る。
ふって沸いた災難にぼくはギャアギャア泣き叫ぶ。
(運動会の借り物レースだったらしい。)
初めて昇った隣家の階段。
ふり向いて下を見たらこわくなり、
降りるに降りられずペタッとと貼りついたままベソをかく。
床屋の椅子。
それまで背中を支えていた部分がググーッと倒れて行く。
ひっくり返りそうで一緒に身体を倒すのがこわい。
いくら大丈夫といわれても信じられない。泣く。
学校のグラウンド。野球という物を初めて見る。
飛んでいる小さな球を細い棒で打ち返す。それをハッシと受け止める。
人間わざとは思えない。
大きくなったら自分もあんな事をしなければならないのか。
大人になるのはいやだなあと、つくづく思う……。
以上を並べてみると、いかにも冴えない幼児像が目に浮かぶ。
その後の多難な人生を暗示していたのでしょうかね。
★最初の記憶/藤子F不二雄★
■「Fujiko・F・Fujio World」から。
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