わたしはたくさんの詩を書いてきた。
しかし、わたしの詩の読者はいつも少なかった。その数はかなしいほど少なかった。
わたしが20歳になるまで、私の詩の読者は三人しかいなかった。
一人はわたしだった。
わたしは、わたしの書いた詩をたんねんに読み、作者にファンレターを出しつづけた。
「くじけずに頑張って下さい。きっといいことがあります。ぼくが保証します。
イジドール・デュカスさんは死ぬまでたった一人しか読者がいなかったのに。
いつだってトム・ソーヤみたいに元気一杯でした。
歴史上、詩人の六割はたった一人しか読者をもちませんでしたし、
自分の書いた作品にうんざりして読もうとしなかった詩人もざらにあります。
読者が少ないことを気にしないで下さい。
それから一つだけ気になったことがあります。『コンドーム』は何の暗喩ですか?
『疎外された性』の暗喩だとしたら、ちょっとイージーすぎないでしょうか?
ではごけんとうを祈っています
一読者より」
一人はわたしの母親だった。
わたしが詩を書いて送ると、わたしの母親は必ず折り返しで現金書留を送ってきた。
わたしの母親は、わたしの詩のどれを読んでも、金の催促だと思っていた。
◇
わたしは詩を解釈するのも苦手だ。
わたしが詩を読む時、感じる感じ方は「おや、すてきだぞ」か
「あれ、ひどいなあ」の二通りしかない。他には、ない。
★さようなら、ギャングたち/高橋源一郎★
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