朝書斎で葉書を取りに行き、速達用の切手を出し赤い線を引くため
赤鉛筆を抽斗から出そうとしかけたら、窓の障子で音がした。
ノラがいつも外から帰って来た時の気配なので、出し掛けた物を投げ出して
急いで開けてみると、例のノラに似た猫がいて、人の顔を見てノラのする通りにニャアニャアと云う。
堪らなくなって暫く泣き続けた。
本当にノラだったら、どんなにうれしいだろう。
この一瞬から万事が立ち直るのに、と思った。
ノラの事を何かのはずみで、或は何でもないのについ思い出す。
成る可く触れない様にしているけれど、思い出す。
思い出せば堪らない。
★ノラや/内田百間★
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