ここ数日間、倫子さんへのお手紙に何を書こうかと考えながら過ごしました。
外に出て自転車を漕いだり、音楽を聴いたり、ベランダのお花に水をあげている時には
倫子さんへのお手紙が書かれてゆくのに、原稿用紙を前にすると頭の中は真っ白になります。
倫子さんと一緒の時、私にとってはそれは心地よく、椅子にじっとしていられない状態になります。
席を立ち、みんなの周りをくるくるまわる。
外に出る、笑う、見る、スキップする。
それが倫子さんと一緒の時の、私の仕事の席のようです。
映画「blue」の撮影の時、カメラ片手に撮影現場に現れた倫子さんを発見すると、
私の中に風が吹きました。
撮影と撮影の切れ間に風が吹く。
その時だけは、緊張が消えて周りのいろんなものが視界に入ってくる。
蜘蛛の巣が光ってる。止まったまま虫が死んでる。色がとても綺麗。
毎日の生活の中で、自分の好きな瞬間がある。
自分一人で繰り返し見続けていて、まばたきで憶えている。
私にとってそういうものが倫子さんの写真には写っていました。
★実日子からの手紙◇装苑 10 2002/市川実日子★
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