五叉路の長い信号をまっていた時だ。先生がおもいだしたかのように、
「へんてこで、よわいやつはさ、けっきょくんとこ、ひとりなんだ」
と口の端からつぶやいた。
「ひとりで生きてくためにさ、へんてこは、それぞれじぶんのわざをみがかなきゃなんない」
「技?」
とん、たたん
「わざだよ」
先生はこたえた。
「そのわざのせいで、よけいめだっちゃって、いっそうひどいめにあうかもしんないよ。
でもさ、それがわかってもさ、へんてこは、わざをさ、みがかないわけにはいかないんだよ。
なあ、なんでだか、ねこ、おまえわかるか」
「それは」
たたん、とん
ぼくは足ぶみのようにひとことずつ区切っていった。
「それがつまり、へんてこさに誇りをもっていられる、たったひとつの方法だから」
「へえ」
と先生は口をとがらせ、
「ねこのくせに、よくわかってやがんの」
★麦ふみクーツェ(第四章)/いしいしんじ★
■こういうのをすぐ選んでしまうのは「へんてこ」に対する憧れがやっぱり。
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