宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2002年05月18日(土) チョコレート戦争/大石真
金泉堂が有名なのは、この店で作っている独特のフランス風洋菓子――そのなかでも、ことに、

ショートケーキ、シュークリーム(これを金泉堂では、正式に、シュー・ア・ラ・クレームとよんでいた)、

エクレールなどの、舌もとろけそうな、なんともいえないうまさのためだった。

   ◇

金泉堂の洋菓子をいくつたべたかが、子どもたちのじまんのたねになった。

子どもどうしで、なにかやくそくするとき、「もし、やくそくをやぶったら、金泉堂だよ」

というのが、流行語になった。

   ◇

「こんど、百点をとったら、金泉堂の洋菓子を買ってあげますからね」

このことばは、ほかのどんなことばよりもききめがあった。

というのは、それをきいたとたん、どんななまけものでも思わず生つばがこみあげてきて、

ねむい目をこすりこすり、机にむかう努力をしたからだ。

   ◇

「いずみがね、カゼで寝ているんだ。三日もね。ちっとも、ものをたべないんだ。

それで、金泉堂の洋菓子なら、たべるだろうと思ってね。」

「そいつは、いい考えだ」と明がいった。「あそこのシュークリームをたべれば、すぐなおっちまうさ」

   ◇

銀のぼんにのせられた、いろとりどりの洋菓子をながめているうちに、めまいのようなものがしてきて

   ◇

明は、口をできるだけおしあけて、その大きなエクレールを口の中におしこんだ。

すると、かたいようでやわらかい、やわらかいようでかたい、その皮のなかから、

かおりのよいクリームが、どっとながれこんできた。

うまかった。舌がしびれ、口じゅうがとろけそうなほど、そのエクレールは、うまかった。


★チョコレート戦争/大石真★

マリ |MAIL






















My追加