早朝の庭では樹陰から夜がすばやく立ち去ろうとしている。
鳥たちが歓びのうたをうたいだす。
太陽がおくればせに射しこむ。
この時庭は他の時間帯よりも饒舌に話し出す。外に向かって。
夜の庭は思索的である。
宇宙の気配にじっと耳を傾けている。
深夜は目覚めている鳥や獣たちの行方を、夜の手の迷路のような掌紋のなかにどこまでも追っている。
夜の庭は語っている。内に向かって。
真昼の庭は沈黙している。
太陽は天頂に、物は影を喪う。
外界の賑わいとは反対に、この時庭は、巨大な沈黙の相貌を見せているのだが、
人間〔ひと〕はそれに気付かない。
真昼の庭は沈黙している。世界を拒むように。
★『沈黙の庭』Silent Garden◇サイレント・ガーデン/武満徹★
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