削除する何かがこの上にあるのなら削除すればいい。骨と皮だけのこの世界から。
茶を飲みすぎて骨と皮だけになったこの世界の上でおまえはもう充分にやせている。
風に吹き飛ばされそうなくらいに。
四十三になって腰痛と眼精疲労と下痢と不眠を人にあげたいくらい抱えて。
おまえがおまえを削除すればいいんだ。
ただし、おまえがおまえから削除できるのは、思い出だけだ。
乾いた、腐ることもできないくらいに乾いた、虫の屍骸みたいな思い出だけだ。
永遠に乾いて、その辺の砂の一粒と見分けのつかない、
風に吹かれて宙を舞うだけの塵のような思い出だけだ。
★永遠も半ばを過ぎて/中島らも★
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