今は今しかないということは・・・繰り返す日々など存在しないということは・・・
凄くて怖くて、とても素敵なこと。
それを自覚すると、今ここに、こうして座る私の体が脈打つ事実が
まるで奇跡ように感じられるもの。
見慣れた夕暮れの景色は、生まれて初めて目に映す世界であるということ・・・
坂を下る軋んだ自転車の音、遠くに聞える遮断機の音、庭を掃くほうきの音、
自転車のバックホーン、 母親の子供を呼ぶ声、真っ赤な空、黒い電柱、
道に撒かれた水が蒸気するにおい、夕食の魚を焼くにおい、
どこかで犬が鳴いていて、どこかへカラスが飛んでいくのが見えるわ。
すべてが生まれて初めて見る情景で、嗅いだにおいで、聞いた音なの。
今日沈む夕陽には、二度と出会うことはないわ。
懸命に・・・懸命に、今が今だけと自覚することが唯一彼を受け入れる条件。
彼は私の隣へ座り、私の肩を抱き、今は静かに目を閉じていてくれている。
私は彼の手の上に自分の手を重ね、すべての存在に注目していたいと思う。
★メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス◇鹿島洋子の台詞/松本大洋★
|