○プラシーヴォ○
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これ…民家デスカ?
と、本日泊まる予定の宿の前で立ちつくす私達
サザエさんやちびまる子ちゃんが住んでいそうな 純和風の一軒家
しかし、『民宿 庄○』と看板はしっかりついている
おそるおそる引き戸を開けると、中は一応それっぽい造りになっていた
17時過ぎぐらいにハム男がふと 「見て見て、ここにスーパーがあるよ」 と宿においてあった周辺の地図を見せた
宿に入る前に、今宵の酒をゲットしようとしたのだが まったくもって酒類を扱っている店を発見できなかった私達
「あ、ほんとだ。 でも、17時30分から食事が始まるから外出しないでって 女将さんに言われたもんね… そうだ、ハム男はここにいてよ 私、こっそり行って探してくるからさ!」
「そう?うんうん、行っといで」
…引き留めてくれとは言わないけどさ
すでに星が見えるほど真っ暗なお外 しかも見知らぬ土地で、 どこにあるんだかハッキリ分からないスーパーに 彼女を一人、よくもマアためらいもなく送りだせるわね、アンタ
この時に、すでに私のエネルギーは 漏れて居たのかもしれない
夜、17時30分から蟹づくしコース開始
う〜ん
全てイマイチ!
いつも家で食べているような味だった 「やっぱ新鮮だと甘い味がするんですね!」 なんて屁にも思わなかった
初めて食べる蟹ミソも、なぜかカラッカラに干からびてやってきた どうやらじっくりと焼いたらしい
「スープ状につくってくれたほうが美味しいのに〜」 とハム男は意気消沈 確かに、なんだか生臭くてボソボソしているだけの 奇妙な食べ物だった
最後の最後に勝手につくった蟹雑炊だけが 一番美味しかった
食事が終わり、19時すぎ さあ、散歩にでも行こうかとハム男を見ると、
爆睡中
焼酎お湯割を2杯飲んだだけなのに?
叩いても叩いても起きない 「車で5分くらいのとこに 温泉があるって女将さんが言ってたやんか〜 早く行こうよ〜」
「んあああ、無理! 寝かせて…明日帰りに温泉に連れてってあげるから…」
と、目も開かない状態で呟くと 再び夢の世界へのバスへと飛び乗ってしまったハム男
19時からひとりぼっちにされて あたしゃいったいどうすればいいんだい?
しぶしぶと浴衣に着替え、宿のお風呂へ入る 誰もいなかったのでノビノビはいることができた
部屋へ帰るとまだ寝ている こんどこそ起きない
一緒に来た意味がないじゃん
とりあえず、冷蔵庫がないので窓の外にくくりつけておいた ビールを袋から出そうと窓を開ける
うう〜、寒い寒い、と窓を閉めようとして 見てしまった
カランコロン と小気味いいゲタ(旅館の)の音を鳴らしながら 浴衣を着た男女が両手に買い物袋をさげて歩いている
笑ってる
少し重たそうな彼女から彼氏は荷物を受け取る
やばい
と思った時には泣いていた (情けなさ120%)
あれが普通だよね? 歩いて10分もかかる所に一人で買い物に行かせないよね? 食事が終わったら散歩するよね?
気がつくとビール3本、缶チューハイ2本 カラになっていた 泣いて泣いて泣いて 電車があったら一人で帰りたいとすら思った
寒くなったので体育座りをしている膝まで 布団をひっぱりあげた 布団に顔を埋めてまた泣く
「あ…がちゃ子、俺、車から財布持ってきたっけ?」
叩いても噛みついても起きなかったハム男がフト目を覚ました
「うん、私の鞄の中に入れてあるよ」
ごく普通の声を出しても 布団につっぷしたままの私はあきらかに不審
ハム男が私の顔を上げさせる 「…なんで泣いてんだよ」 「私達、つきあってないみたいだね 知らない人どうしみたい。刑務所みたいだ」
アハハハハと笑って ハム男は私を布団にひきずりこんだ ぎゅうぎゅうと、寝起きで体温が高いハム男に抱きしめられる
そして私は寝てしまった
夜中、逆に目が冴えたハム男は、 民宿の前に通りかかった屋台のラーメン屋に行き、 民宿の中の自動販売機でビールが売っているのを発見し、
私を起こした
やっと2人の時間だ
ラーメンを半分ずっこして 缶ビールを飲んで
「なんか、旅行に来たみたい」 「…来てるんだっつーの」
だってだって やっとそんな風に思えたんだもの
近頃あなたは手を抜きすぎる なんの根拠があって、そんなに安心して 私を大事に扱わなくなったの?
あなたの安心に反比例して 私はどんどん不安になっていくんですけど…
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