○プラシーヴォ○
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水につけると文字が浮かぶおみくじ。 それは恋みくじ。
最寄の駅から2キロも歩かなくてはいけない神社に、 それが目当てで来た。
巫女さんに一礼して、三宝に二百円を置く。 折りたたまれずに置いてあるおみくじを一枚とる。 そして、湧き水がたまっている水路にそっと浮かべる。 指先に水の冷たい感触。
ふわっと浮かんだ文字を見て、声もでなかった。
youちゃんが、横から覗き込んで声をあげる。 「凶って・・・。ひこうと思ってもなかなか引けないもんよね!」
そういうyouちゃんの手には 濡れた『中吉』のおみくじ。
youちゃんが続けて私のおみくじを読み上げる。 「えーっと、想い人には裏切られる・・・だって! ハム男くん、今ごろ故郷で浮気してるんじゃないのお?」
ありえる。 境内のおみくじを縛っておく場所に、 きつくきつく濡れたおみくじを巻いておく。
温泉玉子がのっていて、 とろろをかけて食べるざるそばを昼食にして、再度歩く。
神社から出発して、 半端じゃない山道を登ったり下ったりすること ゆうに1時間半。 二人とも足が勝手に震え出すという非常事態。 声もでない
目的地は温泉。
夏のお昼に入る露天風呂。 緑がパシッと明るくて、それでも風は涼しくて 疲れがさらさらと白っぽい色の湯に溶けていく。
体が熱くなると、檜の湯船のフチに腰をかけて いつまででも景色を眺める。
湯上りはもちろんビール。 3時間ほど歩いて流れた汗と 温泉で流れた汗を補充すべく、缶を開けるのももどかしく 口をつける。 キューン、ぱちぱちぱち、と喉が刺激でいっぱいになる。
帰る途中、「五山の送り火」を見ることにする。 観覧ポイントのひとつである橋の上で、人ゴミに混じる。
送り火を見るのは初めてで、 いったいどこにあるのかさっぱり分からず、 視線をくるくると四方へ走らせる。
火がともされる時間がきて、山にぼんやりと浮かび上がる。 後日テレビで言っていたのだが、 16万人の人出があったそうだ。
私の子も、大きな炎を見ながら帰っていっただろうか。 炎からふきだされる暖かい風にのって、 どんどん登っていってるのだろうか。
ねえ、私はここだよ。 見える?
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