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■ 喪服は妄想服
肺炎で入院中の親の容態が悪い。
一時は意識不明だったが、今は輸血と点滴でなんとかぜいぜいと、息はしている。
依然として、虫の息ではある。
危険域は脱したものの、おそらく治癒して退院することはない、と思われ……。
7年前に父が死んだ時、母はずっと枕元に付き添い、葬儀屋の用意した宿泊施設からは出棺まで一歩も出なかった。
妊娠中だったわたしは、呆然としたままの母にかわって葬儀の一切を仕切り、気楽な洋装で弔いをすませた。
今度という今度はきちんと喪服を着なければ、な。
自分で帯もしめねば、な。
母親はその後何度も入退院を繰り返したが、一度、神妙な顔付きで、もしもの時は、父の弔いの時のようにばたばたと準備に駆けずり回ったりせず、片時も亡骸のそばを離れないでくれ、と言われた。
薄情で親不孝な自分であるから、最低限、この願いに背くわけにはいかない。
さて、喪服をどうやって準備したらよかろうか。
看護婦(あえて、看護婦、な)からすぐに来いという電話が来たとき、最初に思ったのはそのこと。
でもまあ、その後、容態はもちなおしたから、自宅に洗濯しに戻ったついでに準備。
実家の鍵さえあれば夫でもわかる場所に、たとう紙に包んだ喪服と小物、草履。
その近くにそれらを全部入れるデパートの大きな袋。
嫁入り支度をこしらえてくれた親のために着るのが、初めて着る時になる。
しかし、年寄りって寒い時期によく死ぬ。
絽の喪服は一生、着ないかも……。
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