|
|
■■■
■■
■ 一尺八寸
くじら尺のものさし(=\650.)を買ってきた。
呉服屋と話してたって通じないんだ。 もう、わけわかんないんだ。 らちがあかない。
こっちはもうずっと「cm」で生きてきたんだが、向こうは「寸尺」で生きてきてて……。
センチでいうなよって向こうも思ってんだろうけど……。 尺でいわれても、てんでわかんないわけで……。
ふう、やっとこれで腹に落ちた。
今まで「一寸は約3cm」って in put され自分もそう思い込んでて、子どもにもそう教えてきたが、3.8cmもあるじゃないか!
円周率3.14を「3」だと教えるのと同じくらい大きな間違いを、なんでこの年までほっておいたか。
一寸法師が3cmか、3.8cmか、この8mmの差は大きいぞ。
で、呉服屋が「裄丈が一尺八寸もあるのは、測り間違いじゃないでしょうか? わたしの今着てるのが一尺六寸五分です。そんなに大柄なかたじゃないのに八寸っていう寸法は……」
出来上がったお召しを実家でちょっとはおってみる。
洋服の袖丈はいつも手の甲に半分かかってしまうくらいの、チビなあたし。
いつぞや親が知らないうちに仕立てていた着物の袖がつんつるてんで、手首が丸見えだった反動かどうかしらんが、袖くらいたっぷり長くってもいいじゃないか。
まあ、妥協して一尺七寸五分で統一しましょうってことになった。
襟の抜き方とか、きちんと着て測るべき?
信頼してるお針のお師匠さんに測ってもらっての寸法なんだよ。
親がむかし着ていたキモノが、ほどいて洗い張りに出してあったのを発見したから、去年、この寸法で5枚も6枚も仕立てちゃったんだ。
めんどくさいような、わくわくするような……。
いやあ、幸田文とか、青木玉とか、読みたい。 読まなきゃ!。
* * * * *
夫は着るものに関してはプロである。
子ども服の高級ブランドなんて、いくらでもある。 お金さえあれば、どんな下品な夫婦の家の鼻たれ小僧でもこまっしゃくれた city boy にはなれる。
バブル期、夫は子ども用の着物にざぶざぶ、お金をかけた。
洋服じゃあ見栄を張るにも上限があるってことだろう。 着物で張る見栄には限りはないからな。
生後6日め。 産院を退院する時も真っ白なレースのドレスじゃなく、お宮参り用の背中に魔よけの縫い取りのある繭の色そのものの絹のおべべ。
当然、お宮参りも七五三の衣装も子どもそれぞれ別にこしらえた。
わたしはプロの前で自分が着物を着る自信がなかったから、お宮参りも七五三もスーツとかワンピースだった。
バブルがはじけて、子どもの着るものはみんなユニクロ。
ほんだば、わしもおべべを着るべ。
うちにあるものを着る。 よほどのことでない限り新調しない。 賢い節約。
* * * * *
子どもの視界からは死角の位置にわたしらはいた。
夫は立っていて、あたしはしゃがんで冷蔵庫に野菜をつめていた。
ムスメに声をかけながら、夫があたしの頬をなでなでした。
あたしは夫の足をすりすりしてみた。
犬みたい……。
あたしはこの人の犬でもあるんだって、思った。
2002年10月18日(金)
|
|
|