2008年09月21日(日) |
食品偽装問題は、農水省で防げない |
「 懲らしめの女神はのろまだが、足音を立てずにやってくる 」
ティッブルス ( 古代ローマの抒情詩人 )
Sera, tamen tacitis Poena venit pedibus. = ラテン語 [ Punishment comes later on niseless feet. =英語 ]
Tibulus
古代ローマ時代、一口に 「 女神 」 といっても、様々な種類があったらしい。
ラテン語の [ 罰 = poena ] は、「 懲らしめの女神 」 とも擬人化される。
どこかの企業で不正が発覚し、それが社会的に大きな騒動へ発展すると、監査が甘い、指導が足りぬと、監督官庁である 「 役所 」 に追求が及ぶ。
たとえば、どこかの製薬会社が販売する薬に、副作用の恐れがあったなら 「 厚生労働者 」 が、許認可の責任を負っているので追求される。
今回、大騒動になった事故米問題では、食糧流通ルートへ流れた背景や、流通先の検査を疎かにしたことで 「 農林水産省 」 が槍玉に挙げられた。
たしかに、食糧として適さないことを知りながら、非食用にかぎって販売するという 「 口約束 」 を鵜呑みにし、食品会社へ販売したのは大問題だ。
食用として不正に転売した企業も悪いが、そんな悪事を可能にした農水省も、大いに反省する必要があるだろう。
このような事件が再び起こらないように、国民に安心感を持たせるために、政府は 「 消費者庁 」 の新設を急ぎ、既存省庁へも改善を求めている。
しかしながら、いくら省庁を増やしても、農水省の役人が必死に頑張ったとしても、民間企業による不正を殲滅することは、不可能に近いだろう。
なぜなら、悪質な食品偽装を未然に防ぎ、食の安全を守る対策を農水省や消費者庁に求めても、彼らには、必要な 「 権限 」 が与えられていない。
一例を挙げると、事故米の流通に関して 『 三笠フーズ 』 へ立ち入り検査を行う際に、彼らは、抜き打ちでなく、事前に連絡してから訪問している。
これは、一部のメディアで問題視されていたが、警察官や検察官と違って、農水省の役人に、突然、押しかけて 「 倉庫を見せろ 」 という権限はない。
私服警察官 ( 刑事 ) といえども、常に拳銃を携帯しているわけではなく、それは、危険な状態に遭遇することが予測される場合にかぎられる。
具体的に言うと、「 犯人を検挙するとき 」 や、犯罪の証拠となる物品類を捜索する 「 ガサ入れ 」 の場合などが、それに当たるという。
つまり、怪しいと思われる倉庫へ突入して、不正や犯罪に関与する証拠を探す行為 ( ガサ入れ ) は、警察官でさえ 「 危険な行動 」 とみなしている。
たとえ武器を持たない一般人でも、「 不正を暴かれたら、俺は終わりだ 」 と思えば、衝動的に何をするかわからない。
ご承知の通り、農水省の職員は拳銃など携帯していないし、検査のたびに警官が同行することもないわけで、まったくの無防備である。
また、彼らには、あくまでも一般人の資格として、任意で質問することはできても、警察官のような 「 職務質問 」 を行うことはできない。
倉庫内に立ち入ることも、相手の同意を得て、はじめて実行できるわけで、相手が 「 見せたくない 」 と言えば、黙って帰るしかないのだ。
そんな検査で 「 動かぬ証拠 」 など滅多に出てこないし、万が一、それらを手に入れたところで、逮捕、拘留したり、尋問する権利などない。
ようするに、省庁は 「 不正の発生し難い仕組みづくり 」 が仕事であって、違反を監視したり、犯罪行為を取り締まるのは、警察にしかできない。
管轄する民間企業の不祥事は、関係省庁の 「 正義感 」 だけで抑えられるものではなく、「 責任 」 の行使には 「 権限 」 が伴うことを理解すべきだ。
不埒な企業に鉄槌を下し、懲らしめるためには、各省庁の改善を図ったり、新たな省庁を新設するより、警察機構を拡充するほうが効率的だ。
警察の中に、農水省担当とか、厚労省担当とかの窓口を儲け、関係省庁と緊密な連携をとりながら、検査や監視を行い、違反者は刑事告発する。
たとえば、大分県の 「 教員採用汚職 」 なども、現場には任せず、警察の文部省担当に当たらせれば、身内庇いがなく、実態の解明が早い。
すべて責任を省庁に押し付けるのは簡単だが、犯罪に手を染めた張本人を懲らしめる手段を強化しないと、ますます悪事がはびこるばかりである。
過去、「 国家権力の介入 」 を嫌う左翼的な人々の猛反対に遭い、潰されてきたプランだが、違反者、犯罪者の始末は、警察に任せることが望ましい。
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