覆面作家企画6Gブロックの感想です。
G01 いきたいと希う
自分の居場所を探す少女と、ひとではない少年たちとの巡り会いのお話。
タイトルの「いきたい」は「逝きたい」とも「生きたい」とも捉えられるので、奥深いなぁと思いました。
大和と伊織はさらっと言ってましたが、二人の死の間際が語られた時は何とも言えぬ切なさが広がりました。
何も変わらないけど、前を向く少女が少しだけ強くなったような、そんな印象が残るお話。
G02 火宅咲(わら)う
「咲う」は「笑まう(えまう)」という意。その前に火の家とついていたから物騒な話なのかなぁと体強張らせて読みにかかりました。
作中に出てきた家は色々と謎めいておりますが、こういった都市伝説はありそうだなぁ。
親の期待に添うべく生きてきた彼女は自分の存在を他人の評価でしか受け入れられなかったのが悲しいというか、家に招かれたことで、ある意味救われたのかもしれないけどこの結末はやりきれなさが残りますね。
G03 これから朝が訪れる
エレナが猫に燻製をあげているシーンが強烈に残りました。猫の餌なのに、レイラはその餌を物惜しそうに見てしまう、二人の貧富の差が心に突き刺さり……と思ったらどんでん返し。
エレナがレイラを見下していたと分かった瞬間、人間が抱える業と心の闇が垣間見えた気がしました。
エレナも決して豊かな生活ではないけど、洗濯婦をしているレイラを可哀想がることで、自分の立場を正当化しようとしている、この姿に人間臭さを感じます。
「怒ってもいいのよ」という言葉はレイラへの優しさではなく、同族嫌悪から出てきたのかもしれませんね。
G04 蝋燭
なんとも悲しい復讐劇。少女のとつとつとした語りが、徐々に感情を帯びていく姿にじわじわと冷気を感じました。
まるで、ミステリのクライマックスを見ているような錯覚。男が胸元を漁る場面はとてもリアルに映ります。この時、男の感情が初めてむき出しになったとも言えるんじゃないでしょうか。
読み進めるうちにこちらも手に汗を握りました。物語の最後、瞼を閉じた瞬間、復讐を遂げた少女の慟哭が私の脳裏に浮かんだのはいうまでもありません。
G05 金糸雀に雨
お互いを想う少年少女の、せつなくもうつくしい物語。金糸雀の健気さが目に浮かびます。
緩やかな文章とひらがなの並びがとても美しく、サーカスという独特の雰囲気にどっぷり漬からせて頂きました。
最後に金糸雀がよだかを突き離す場面、それでも迎えにいくと伝えるよだか。想像するだけでたまりません。
何時の日か、二人が再会することを願わずにはいられませんでした。
G06 ファレと変な魔法使い
「ワタクシ」の語り口調が可愛らしくて可愛らしくて。
ご主人様を起こしたり、ご主人様に嫌われたと思って泣きそうになったり……幼女(!)の一つ一つの動作を想像するだけで鼻血吹きそうです。
最後イケメンに変身した(戻った?)グレン様に心ぐらぐらなのも笑えました。いくらなんでもツボ入りすぎる〜これは参った。
最初から最後まで口元がゆるみっぱなしでしたよ〜
G07 TOMOSU
>一枚の手――手首から五本の指先まで一揃い
>手は怪しげな魔術道具
このくだりを見た瞬間、私の中で「スキップ・ビート」がぽん、と出てきましたよ。
たしかマリアちゃんがモー子さんにプレゼントしたやつよね? モー子さん曰く、あれよりもキョーコ人形の方が禍々しかったとかなんとかってやつ。
あんな雰囲気なのかー。あれはいらんなぁ。あんまり役に立たなさそうー、嫌だなぁ、と思いつつ、このお得感の押し売り、如何にもな通販番組の雰囲気をによによしながら楽しんでおりました。
そして零式って……妖怪ウォッチになってるし。最後まで笑わせてくれました。
G08 恋愛未満コンロ。
島村くんと先輩のやり取りがとても面白かったです。
このお話で注目してしまったのは物語のあちこちに出てくるコンロの描写。かち、かち、と鳴るコンロが先輩の代わりに嫉妬や嘆きを叫んでいるのかぁ、と。この書き表し方は、すごいなぁと思いました。
ああ、お兄ちゃん切ない。でもなんだか笑ってしまう、心がほっこりしてしまうのは登場人物たちの優しさと文体のせいでしょうか。
バレンタイン司教ってネーミングも素敵過ぎます。
G09 火球少女
サッカー少年の初めての挫折、しかも女の子に鼻をへし折られてしまい、その落胆ぶりが青臭く、瑞々しく描かれていて、ああ青春だよね、と胸躍らせながら読んでいました。
でもついつい目がいってしまったのは主人公の相沢よりも千秋の方。
女子サッカーが世界一になったことでその認知度は高まっているけど、部活に取り入れるとなるとまだまだ難しい所ですよね。
それを考えると千秋はとても志が高いなと思います。才能も実力もそれに見合っていて、しかも髪を切ったら美人だったというなんてずるい展開だ(褒め言葉です)
このもやもやとした気持ちは恋の始まり? 二人の今後の動向が気になる所です。
G10 マイノリティ・レポート
覆面で、こういう作品はまだ出てなかった。やられたなーと思うと同時に文章の奥の深さを感じました。
高山地帯で火を運ぶという、伝統行事を追いかけるレポートは実際にあるのかな? どうなんだろう、と考えつつ。(実際は掲載されていない)写真の説明文からも想像が広がってきます。
文明の進歩とともに消えていく「慣習」は地域性に限らず、身近な所にも結構あるのではないかと思います。
それを生かすも殺すも私達の手にかかっている、ということでしょうか。とても考えさせられる作品でした。
G11 イレーネ
この作品を一言で表すなら、理不尽、なのかな? それしか出てきませんでした。
というかどれだけ箱入り娘なんでしょうねイレーネは。二人は常に対照的に描かれているようで、それを考えると拷問を受け倒れたハンスが不憫でなりません。
身分違いというのはこんなにも残酷なものか。でもハンスにとってイレーネの存在は恋というより憧れに近いような、まだ淡いものだったのでしょうか。
彼の、イレーネを想う気持ちが響いて、胸が痛みました。