でも私は完全に墜ちたぞ(と最初に書いてみる)
横山秀夫氏の名作です。
仕事の休憩時間に読もうかなぁな程度と。
そういえば前に図書館で探したけど貸出中だったなぁという記憶により。
だいぶ時期を過ぎてから読む形になりました。
いいんです。もともと流行にワンテンポ遅れる人ですから。
そう自分に言い聞かせつつ、合間合間に読みふけり。
脱帽だ。
プロの文章にただただ感服。
人を読書の波に乗せるのが上手すぎるよ。
アルツハイマーに冒された妻を殺してしまった元警察官。
事件後、自首するまでの二日間の謎を軸に、事件を追ったミステリーであり、ヒューマンストーリーなんですが。
各章ごとの主人公と視点が変わりつつ、舞台が警察から裁判、そして刑務所と流れていく話の構成にやられました。
こういう一つの事件を多角的に見る話、大好きなんですよ。
登場人物たちの立場や葛藤、交錯していく姿がもう、読んでいてワクワクするわけで。
読んでいて時々にやけてしまいました。
私個人で言わせて頂くなら、取調官の志木警視がもう最高。
取調で犯人が話すくだりを「物語」として、自分は読者になって読んでいるのだという考え方がとても素敵。
そして犯人とのやりとり。深海を思わせる穏やかさを描いた梶の姿が時折心を軋ませる位切なく感じます。
映画(の紹介)で寺尾聡さんが演じていたのもあって、読書中私の中では梶のイメージだけが強烈に浮かんだわけなんですが。
寺尾さん……すんごいハマリ役だったのね、と改めて思ったりして。
(ちなみに私は映画を見てません。宣伝とかで数シーン見た程度)
お薦めの一文は裁判官藤林の章で、裁判中の刹那、検察官と弁護士、そして志木が藤林に熱い視線を送る所ですね。ああ、みんな心は一緒なのねと、私は妙に嬉しくなってしまいました。
話の結びはとてもとても切なくて。でも、それが梶を支えていたのかと思うと、彼は幸せな人間だなと思いました。生きてくれてよかったと。
空白の2日間、あと1年という期限の意味。
それを知った時、私の心はとても満ち足りたものに変わっていました。