久々に小説仕立てに書いてみました。
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4時を過ぎたところで、和は今まで書いていた物語の続きを保存する。後ろ髪を引かれながらパソコンの前を去り(それでも電源は入れたまま)流し台の前に立ってみた。そこには昼間作った野菜丼のなれの果てがある。野菜丼っていっても。昨日スーパーで買った詰め合わせの天ぷらをご飯の上に載せただけのもの、だけど。
「丼」はシンクの中でだらしなく転がっていた。いつ洗ってくれるの?そんな風に和を見上げて言ってる気がしたので、
「はいはい、今洗うわよ」
やる気のない声で一人、答えてみる。湯沸かし器のスイッチを手のひらで押した。
スポンジに洗剤をちょっとつけて手際よく、とまではいかないがムダのない動きを心掛け、丼を洗い流す。気づくと和の周りが湯気だらけになっていた。これは毎度のことだ。
食器を洗い終えるとそれらを水切りの上に置いた。が、先客がいる。朝乗り込んだ小皿や鍋達。せっかく乾きかけているのに、和のずぼらな性格のおかげでまた濡れ鼠と化してしまった。
……さすがにコレはまずいよなぁ。
思い立って布巾で食器を拭う。食洗機、あったら便利だろうけど。でもなぁ。キッチン狭いし、あってもそこから先の片付けやらなそうだし。和は悶々と考えながら手を動かす。自分の目の前の仕事をこなしながら頭の中は違う所へ飛ぶ、これも毎度のことだ。
「さて」
ようやく夕飯を作るべき環境が整ったところで、和は冷蔵庫の前に立った。
野菜室から玉葱と人参を選んで取り出す。久々に凝ったものを作ろうと思った。コーンポタージュスープ、相方の家で定番料理にもなりつつある一品だ。
前にもらったレシピを探す。引き出しの中から出てきたくしゃくしゃの紙を見てはこれかな?と開けてみる。やっぱりそうだ。和は折り目を正すと、冷蔵庫の隣にある電子レンジの上に置いた。「レシピ隊長」と勝手に命名。和は隊長の様子をチラチラ伺いながら、それでも指示どうりに動いていく。
野菜のみじん切り、フードプロセッサーで30秒。「あーあ、また洗い物が増えた」そう思うけど、延々と涙と格闘するのも面倒くさい。刻んだ野菜はバターで焦がさないように炒める。だったら弱火の方がいいかな?思ってつまみを炎ひとつ前まで戻す。
小麦粉を入れて更に炒める。「4〜5分炒めてまとまってきたら」なんて書いてあるけど。1分ちょっとでまとまったし。でも隊長の指示は絶対だろうなぁ……こんな時だけタイマーをかけて正確に計ってしまうあたり、和の変な性格が伺える気がする。
コーンクリーム缶を入れ更にブイヨンスープを加え、なめらかになるようにのばしていく。この辺で火は止めておこう。次の工程に入る為の時間短縮だ。ちょっとだけ味見をする。うーん、らしいっていえばらしい味?
「ま、いいや」
用意したミキサーに鍋の中身を注ぐ。げ、中身がハネた!壁に冷蔵庫に黄色いシミがついていく……年末に掃除したばっかりなのに。とほほと思いつつミキサーのスイッチON!このミキサー、大柄な上に音もうるさいから困ったものだ。ゴゴゴゴ、世界が揺れる。まるで地響きのよう……いや、ミキサーなりの叫びか?「混ぜろ、混ぜろ、粉々になれ!」唄うように聞こえてくるのは気のせいか。やっぱりタダでもらったモノには何かあるってコトだろうか?
まあいい。ミキサーを止める和。中身を鍋に戻した。途中「ふるい」という名のこし器を通して液体だけを抽出する。これがとても時間がかかる。退屈になるほど長い作業なのだ。相方の実家ではそれを目の細かいザルでやっているけど。この家のザルは目が粗すぎて固形物まで通してしまうのだ。前にそれをやって、玉葱嫌いの相方にぎゃんぎゃん言われたことがある。
慎重に慎重に。心を穏やかにして作業にのめり込む。時々違う家事をしたりして紛らわす。気がつくと、時刻はもう5時をまわっていた。ふるいに残ったカスは三角コーナーへと追いやっておく。
「あらら」
気がついたら黄色の残りカスと、さっきトンカツ用にとよけた紅の豚肉血管部分がきれいなコントラストを奏でているではないか!さしずめ黄色は卵焼きのそぼろ。赤は着色料のついたハム、あるいはトマトといった感じで。うん、食べられなくもなさそう……思わず手を伸ばしたくなる。
「おいおい、腹下すって」
自分に突っ込んでようやく動きを止める。そうそう、それよりもスープだスープ。
うん、いい色だ。これに牛乳と生クリームを加えて……明らかにカロリー高そうだよな、と思いはするものの。塩こしょうで整えた味は。
「生クリーム、多かったか?」