実家に帰省すると、どうも寝るのが夜遅くなってしまう。
これはそんな時に起こった、不思議な話。
和達が実家に来ると必ず座敷に布団が敷かれる。
座敷は二間あるのだが、和達が使うのは奥の部屋だ。
今回は和の父親が作った稲荷様があるせいか、気をきかした両親が襖を取っ払ってくれた。
広くなった部屋。その日は布団を敷くと、和が寝る場所の斜め先に仏壇が見えるようになっていた。
実家に来た和達はいつものように家族と食事をし、酒を交わしていた。
そして、お開きになった後、和はその後だらだらとテレビを見、そして家族が寝静まった後、ようやく寝る準備を始める。
のんびり風呂につかった和が床についたのは、日付もそろそろ変わろうかという時だった。
開けっ放しの窓を閉め、扇風機の風を頼りに涼む。
相方は既に眠りの世界へ入っていた。時折いびきも聞こえる。
しぱらくして、和は部屋の電気を消して横になった。
静かに目を閉じ、眠りにつこうとするが……
眠れない。
ごろん、と仏壇のある方向へ寝返りを打ったその時だった。
和はぎくりとする。
そこからぼおっと青白い光が。
ちか、ちか。
一定の時間を保って点滅しているのだ。
「何だ?」
最初は外の道で車がハザードでもたいているのかと思った。
だがすぐに違うと和は気づく。
第一ハザードならランプはオレンジ色のはず……
「やばい。見ちゃいけないモノを見たような」
和は仏壇から目をそらすように寝返りを打った。
目の前では酔いつぶれた相方がすやすやと寝息を立てている。
相方め。ぐっすり寝てやがる。
和は意識がないことがうらやましく、少し憎らしく思えた。
そしてため息をひとつつく。
何だかなぁ。
ちょっと気が抜けたところで和は落ち着きを取り戻した事に気が付く。
今更ながら、と思い出す。
自分が早とちりしやすいタチだということを。
「そっか。落ち着いて見れば何でもなかったりするんだよね」
ばかだなぁ、と思いつつもう一度仏壇を見た和。
だが、すぐに踵を返した。
「やっぱり光っているっ」
マジかよ、と和はぼやく。
その時、訳のわからない音楽が鳴り響いた。
思わず体がびくりと揺れる。
「なんだ。時計か」
どうしてだか、実家の時計は夜中になっても時報の音楽が家中に響くのだ。
こういう時にこの音は毒だって、と思う。
最後に時計の鐘が1つ鳴り、子の刻を知らせた。
あと1時間もすれば「丑三つ時」。
それまでに寝付くことができるだろうか?
悶々とした気持ちを抱え、無理矢理目を閉じる和。
だが気になる。
気になって眠れないし、変にこそばゆい。
もう一度だけ振り返ってみようかと、心の中でもう一人の自分がささやく。
もともとそういうのが見えるタチではないのだ。
もう一回……もう一回振りいたら青白い光なんて、ないかもしれない。
気のせい……そう、気のせいに違いない。
うん。そうだそうだ、と。
和は必死に自分で言い聞かせ、おそるおそる……振り返る。
そおっと仏壇をのぞきこむ。
光が見えないことを祈りつつ。
だが、というかやっぱり気のせいではなかったのだ。
声が詰まって叫ぶにも叫びようがない。
背筋が凍る思い。
和は思わずタオルケットを頭から被る。
何で?何で?
今日墓参りに行ったから?
お盆に帰省しなくて怒っているのか?
わーん、ごめんなさいって先祖さまぁ。
***
「ああ。そういえば知らなかったっけ?話しておけばよかったね」
18時間後。
日も傾きかけ、和達が帰る準備をしている中。
仏壇の前で和の母はけらけらと笑っていた。
隣では相方が全然気がつかなかった、と言って差し出されたマドレーヌをほおばっている。
真相を知った和は嘆息した。
「まったく、見えないモノが見えちゃったって思ったわよ。朝仏壇見るまで気が気じゃなかったんだから」
和が見た青白い光の正体、それは仏壇のコンセントに差し込まれたネズミよけの機械だった。
「電源ランプが点滅するのよねぇ。言ってくれれば外したのに」
いや、寝ているところを起こすのも気が引けるって、と和は心の中でつぶやく。
そう、所詮はこんなもの。
でも変なモノじゃなくてよかったと、和は心から安心するのだった……