本日は本来ひな祭りですがなぜかこちらでは四月三日にひな祭りの習慣があります。なんでだろうね。小野上です。 六日の準備をちょこちょことしております。一泊二日の旅行なんで荷物は大してないのですが、「迷わないか」と「遅れないか」だけが心配ですドキドキ。 とはいえなにせJ庭が行われる敷地内のホテルに泊まり、そこと空港を直通のバスで行き来する気なんで時間さえ守ればきっと大丈夫だと思います。多分。信じてるわ自分。 ところで新刊「H」のニセリーマン・「尽くすタチ」ですが過去に自分の書いたものの中で一番BLらしいと自負しております。 小野上さんのBLの定義 ・攻は超がつくいい男で能力も人望も高い。 ・受は基本的にホモじゃないけどなぜか攻にはドキドキv ・分かってないけど実は両思い。 ・小さな誤解がきっかけで互いの気持ちを知る。 ・エロはちょっと強引に始まり最後はラブラブ。 ……定義は満たしてるはずなんですがねえ…… 冒頭はこんな感じです。 本当にいる。 暗い廊下の隅で息を潜めながら、伊吹(いぶき)羽純(はずみ)は思わずぐっと拳を握り締めた。まだ体格に馴染んでいない暗い紺色のスーツの腕に、硬いしわが何本か刻まれるほど強く。 もう少し肩を詰めた方が良かったんじゃないですかね――聞き慣れた、丁寧なのにどこかからかいを含んだ声が耳の奥によみがえり、羽純は少年っぽさの残る整った顔立ちをかすかにしかめた。 時刻は夜の十時半過ぎ。このビル内の社員はとうの昔に全員退社しているはずの時間だ。今は別にそれほど仕事の忙しい時期でもないので、こんな時間まで残業している者はいないはず。 なのに羽純が息を詰めて見つめる総務のオフィスの曇りガラスの向こうに、小さな明かりが灯っている。 普通の照明とは大きさも高さも違う。あれは多分懐中電灯の光だ。 警備員はビルの入り口脇の詰め所で退屈そうに小さなテレビを見ていた。言ってはなんだが二人以上常勤の警備員を入れるほどここに金はない。そのことは、社内の誰よりも分かり過ぎるほど分かっている。 見ている限り明かりはほとんど移動していない。その代わり、にじんでぼやける明かりに実は二種類あることに羽純は気付いた。 一つは丸くて黄色っぽい、懐中電灯のもの。もう一つは青白い。 社の重要データ類の多くがしまわれた、パソコンのディスプレイの放つ光だ。 羽純はいらいらと暗い廊下の左右を見回したが、待ち合わせをしていた宇治川(うじかわ)はまだ姿を見せない。 社長室の前で九時半に落ち合うという約束はとっくに破られてしまっている。あいつは今夜も十時過ぎに総務にやって来るはずですと、そう聞いていたので仕方なくこちらへ移動して来たのだ。 まさかすれ違ったか、宇治川は今ごろ社長室の前かと羽純はあせりを覚えたが、彼は機転の利く方だ。約束の時間に相手がいなければ、目的地にやって来るぐらいの気は利かせるだろう。 いらいらしている内に懐中電灯の明かりが動いた。羽純ははっと体を強張らせた。 今夜の〈仕事〉はもう済んだということなのか。中にいるあいつが、出て来てしまう。 正直一人で彼と対決する自信はなかった。けれど宇治川はまだ来ない。サイレントモードにしてある携帯の方も確認してみたが、何の連絡も入っていない。 一人で行くしかない。見えない何かに鷲掴みにでもされたように胸が苦しくなったが、きっと顔を上げて羽純は堂々と歩き始めた。 過去のことは知らない。――知りたくなかった。けれど今この会社は「株式会社 イブキ」で、自分はここの社長・伊吹羽純だ。責任があるんだ。 大嫌いな恥ずかしい名前を胸の中でつぶやいてから、羽純は総務オフィスのドアに手をかけた。一つ息を吸って、吐いて、それから思いきり音を立ててドアを開く。 「二神(ふたがみ)!」 バーン、と漫画の擬音のような音を立ててドアが開いた時、今まさにディスプレイの電源を落とそうとしていた若い男がわずかにみじろいだ。片手に握った懐中電灯の光がかすかに揺れる。 「羽純さん」 羽純の知る限りでは最大に驚いた顔をした、社長秘書の二神連理(れんり)だ。銀縁眼鏡の細いフレームが、ディスプレイの光を受けて蛍の火のように青白く輝いていた。 ここまで。 名前の方もありそななさそな感じで考えてみました。二人とも「花散」辺りなら普通に出られそうだ。
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